獅子。
まだ二日もあるよ。
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唐・玄宗の開元(713〜741)の末年、西域より獅子を献上することあり。
この獅子を連れた使者の一行は、長安の西郊にまで至って唐朝の役人らに出迎えられ、宿場で宴が行われることとなった。
このとき、獅子は
繋于駅樹。
駅樹に繋ぐ。
宿場の木に厳重につながれた。
ところで、
樹近井。
樹、井に近し。
この木のすぐ近くに井戸があった。
宿場の官吏の言によれば、たいへん古くからある井戸で、この町自体がこの井戸の回りに発展してきたのだ、ということである。
獅子を繋いでしばらくすると、
獅子哮吼、若不自安。
獅子哮吼し、自ら安んぜざるがごとし。
獅子は(井戸に向かって激しく吼えはじめ、非常に不安そうな様子であった。
獅子が吼える声はブッダの説法にも譬えられるほどの迫力がある。
使者と出迎えのそれぞれの役人や町のひとたちが集まってきて、
「このように吼えることはこれまでございませなんだ」
「いったい何かにおびえているようだが・・・」
と首をひねっていたところ、
俄頃風雷大至。
俄頃(にわか)に風雷大いに至る。
突然、暴風が吹き出し、稲妻が閃き雷鳴が轟いた。
「うわあ」
ひとびと慌てて物陰に隠れようとしたとき、ひときわ激しい雷鳴とともに閃光が走り、
果有龍出井而去。
果たして龍の井を出でて去る有り。
なんと、井戸から巨大な龍が出現して、空に昇って行ってしまった。
するとすぐに雷鳴おさまり、風も止んだ。
「おお」
そのときには獅子はすでにこときれており、またそれからは井戸の水が涸れて、やがて宿場も荒れ果ててしまったのであった。
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唐・李肇「唐国史補」巻上より。
わたしどもはいつも不安でビクビクしているのですが、今日は特にビクビクが強いぞ。明日ぐらい会社で取り返しのつかないようなコトが起こる前兆かとも思うが、備えようにもあまりにも心当たりが多すぎて具体的な案件の予想がつかないのだ。
逃げ出した龍の方が弱者なのかも。