天高くブタ肥える秋だが、しごとはつらい。
追い込まれております。すべてを忘れてしまいたい。
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晋のころ、趙吉常というひとがまだ田舎に暮らしていた少年時代のこと。
しばらく前からふらりと現れて村はずれに野宿していた足の不自由な浮浪者がいたのだが、ある日、
有一蹇人死。
一蹇人の死する有り。
この人の死体が発見された。
村人の誰かと争っていたという噂もあったが、めんどうなことになるのも避けたかったので、村人らは役所にも届けず、
埋在陌辺。
埋めて陌辺に在り。
その死体を道端に埋めた。
・・・それから趙は役人になり、各地の県尉などを勤めて、二十数年を経てまた郷里に戻ってきた。
隠退後ですることも無いので、家の門前に立ってぼんやりと道の向こうを見ていたところ、
有一遠方人過趙所。遠方人行十余歩忽作蹇。
一遠方人の趙の所を過ぎる有り。遠方人、行くこと十余歩にしてたちまち蹇を作す。
遠くから旅してきたらしいひとが、趙の門前を通り過ぎた。このひと、通り過ぎて十数歩歩いたところで、突然、足を引きずり出した。
趙が
「どうなされた?」
と声をかけると、振り向いた旅人がいうに、
「もうお忘れですかな?」
と。
旅人が振り向いたところは、かつて浮浪者を埋めたところであった、ということだ。
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南朝宋・劉義慶「幽明録」より。
ふつう忘れてますよね。いやなことなら特に。