(←こいつも気立てはいいやつなんですが・・・)
暖かくなって来て、くしゃみや咳をする人が多くなってきました。
なんでクシャミが出るのかな? 現代@では
あの娘よい子だ 気立てのよい娘 リンゴによく似た可愛いい娘
どなたがいったかうれしいうわさ 軽いくしゃみもトンデ出る (サトウハチロー「リンゴの唄」)
というから誰かがおまえさんのウワサをしておるのかな?
花粉? なんじゃそれ。PM2.5? わしの若いころには聞いたこともないぞよ。
な、なにい? その歌は七十年前の歌でお前のいう「現代@」というのはいつの時代だ、じゃと?、「ウワサされるとクシャミが出る」なんてもう古い!?
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「詩経」に「終風」という詩があるが、その中に
寤言不寐、原言則嚔。
寤(さめ)てここに寐(い)ねず、原(ねが)わくばここに嚔せん。
ごろごろすれども眠られない、お願いだからあたしにクシャミさせてよ。
という句がある。
なんでこの人はクシャミさせてもらいたがっているのか?
漢の鄭玄の注に言う、
我其憂悼不能寐、女思我心如是、我則嚔也。今俗人嚔云、人道我。此古之遺語也。
「我それ憂悼して寐ぬるあたわず、なんじ我を思うの心かくの如くんば、我すなわち嚔せん」となり。今、俗に人嚔して云う、「人の我を道(い)うなり」と。これ古えの遺語なり。
(この句の意は)「あたしは心配で憂鬱で眠れない。あなたがあたしのことを強く思ってくれたなら、あたしはクシャミできるのに。(クシャミできないのはあなたがあたしのことを思ってくれてないからなのだ)」
というのである。
現代Aでも、一般にクシャミしたとき、みんな
「誰かがあたしのことをウワサしているのだ」
と言うのは、おおむかしから受け継がれてきたコトバであるのだ。
と。
この「現代A」は後漢の時代、紀元二世紀である。そして「詩経」の詩は紀元前七世紀にさかのぼるものもあるというのである。
ところで
今人噴嚔不止者、必噀唾祝云、有人説我。婦人尤甚。
今人、噴嚔(ふんてい)止まらざるもの、必ず唾を噀(は)きて祝して云う、「人の我を説く有らん」と。婦人もっとも甚し。
現代Bのひとびと、くしゃみが止まらなくなると、必ず唾を吐いた上で、
「誰かがあたしのウワサをしているのだね」
と喜んで言う。特に女性はそうである。
乃知此風自古以来有之。
すなわち知る、この風、いにしえより以来これ有るなり。
ということで、この風俗はむかしからずっとある、ということがわかったのである。
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南宋・洪邁「容斎随筆」巻四より。
つまり、「現代B」というのは、南宋の時代、十二世紀のことなわけですよ。
ということで、ウワサされるとクシャミが出るのは、70年ではなくチュウゴク2700年の歴史があるのである。あたたかくなるとクシャミが多いのは、春になると浮ついた心がウキウキしてきてみんな互いにウワサしあうからなのであろうか。浮薄なり。まことにケしからん。