平成26年12月15日(月)  目次へ  前回に戻る

「本に書いてあることだからホントのことかも・・・」

寒いですね。

「こんな夜は辛いものでも食って温まりたい」というひともいるが・・・

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唐のころ、江蘇・海州の南の方に運河があって、ここから淮水や楚の地方にまで水運が通じていた。

宝応年間(762〜763.まだ史思明の乱が続いているころになる)、

堰破水涸、魚商絶行。

堰破れて水涸れ、魚・商の行くこと絶たる。

水を堰き止めるダムが決壊して水が溜まらなくなり、魚も商人を乗せた舟も行き来できなくなってしまった。

「魚」と「商」が並列されていて、イキな表現ですね。

州の責任者である東海令・李知遠というひと、修復工事に務めたが、

堰将成輙壊。如此者数四、用費頗多、知遠甚以為憂。

堰まさに成らんとしてすなわち壊る。かくのごときもの四を数え、用費すこぶる多く、知遠はなはだ以て憂いと為す。

ダムがやっと完成する―――という直前に壊れてしまった。同じようなことが四回も続き、費用もずいぶんかさんでしまって、李知遠はこのことにたいへん悩んでいた。

その李知遠のもとに一人の老人が現れて、曰く、

梁代築浮山堰、頻有闕壊。乃以鉄数万斤墳積其下、堰乃成。

梁代に浮山堰を築かんとするに、頻りに闕壊有り。すなわち鉄数万斤を以てその下に墳積するに、堰すなわち成る。

「200年ちょっと前の梁の時代、浮山のダムを築こうとしたときにも、やはり何度も決壊したものでしたのう。あのときは鉄を10トンぐらい(一斤=400グラムで計算)ダムの地下に埋め込んで、そうしたらダムが無事完成したのでしたなあ」

知遠はこれを聞いて、

「なるほど、そいつがおったのか」

と手を打って喜んだ。

そして、

即依其言而塞穴。

即ちその言に依りて穴を塞げり。

すぐに、老人の言葉をよりどころに、鉄を埋めてダムの地下の穴を塞いだ。

すると―――

初、堰之将壊也、輙聞其下殷如雷声。至是其声移于上流数里。

初め、堰のまさに壊れんとするや、すなわちその下に殷として雷声のごときを聞けり。ここに至りて、その声、上流数里に移る。

これまで、完成間近のダムが壊れるときには、いつもその直前に、地下から「ゴーン、ゴーン」と雷鳴のような音が聞こえていたのであるが、今回は、その音が1キロ以上上流側に離れた(一里=400メートルで計算)ところで聞こえるようになった。

「これはどういうことでしょうか?」

と部下が訊ねると、知遠はニヤニヤしながら答えるに、

蓋金鉄味辛、辛能害目。蛟龍護其目、避之而去。

けだし金鉄は味辛く、辛きはよく目を害う。蛟龍その目を護らんとして、これを避けて去るなり。

「つまり、鉄などの金属は味がカラい。カラいものは目に浸みて、目が見えなくなってしまうから、この地下にいた水龍は目を守ろうと考えて、ここより上流に移動した、というわけじゃ」

こうして、ついにダムは完成したのであった。

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唐・封演「封氏聞見記」巻八より。

辛いもの食べると目が悪くなるそうですから、辛いものには気をつけよう。(今日はかきみそなべ)

 

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