平成26年11月14日(金)  目次へ  前回に戻る

 

寒くなってきました。ペンギンどもは氷山の上で元気でやっているであろうか。

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唐・玄宗の天宝年間、新たに進士になった張彖(ちょう・たん)は陝西のひと、

力学有大名、志気高大、未嘗低折於人。

力学して大名有り、志気高大にしていまだかつて人に低折することあらず。

学問に努力して有名になり、志は高邁にして気宇は壮ん、これまで誰に対しても膝を屈したことが無いという人柄であった。

あるひと、そんな張彖に

「あなたはこれからエラくなる人だから」

と、当時楊貴妃の従兄弟というので宰相に任ぜられ、権勢並ぶ者無き楊国忠に紹介の労をとろうと持ちかけた。

張彖曰く、

爾輩以謂楊公之勢、倚靠如泰山。

爾が輩、おもえらく、楊公の勢は、倚靠(いこう)するに泰山の如し、と。

「おまえさんたちは、楊国忠どのの権勢は、頼り凭れかかっても泰山のように確実だ、と思い込んでいるんだなあ。

以吾所見、乃氷山也。或皎日大明之際、則此山当誤人爾。

吾が見る所を以てすれば、すなわち氷山なり。あるいは皎日の大明の際、すなわちこの山まさに人を誤たんのみ。

「わたしの見立てでは、この山は実は氷山だね。ある日、太陽がぎらぎらと輝いたら、あっという間に融けてしまい、みなさんは水に投げ出されて、はじめてこの山に騙されていたことに気づくであろう。

実に下らん」

楊国忠は後に安禄山の乱のときに責任を問われて誅殺されてしまうので、張彖の見立てはそのとおりであった。

さて、張彖の方は華陰県の尉(警察部長)に任命されたが、そのとき上司であった県令やそのまた上司の太守は、

倶非其人、多行不法。

ともにその人にあらず、多く不法を行えり。

どちらも職務にみあったような人物ではなく、不法なことをして私欲を肥やしていた。

張彖はその不法に気づくたびに県令や太守を文書で批判したが、二人ともそれを握り潰し、批判を受けつけなかった。

張彖曰く、

大丈夫有凌霄蓋世之志、而拘於下位、若立身於矮屋中、使人擡頭不得。

大丈夫、凌霄(りょうしょう)・蓋世(がいせい)の志有りて、下位に拘せらるるは、矮屋中に立身し人をして擡頭得ざらしむるがごとし。

「凌霄」は「霄」(そら)を超える、「蓋世」は世界を蓋う。どちらも気宇の壮大であること。

「立派なおとこが、天をも越え、世界を相手にしようとしているのに、下らぬ上役のせいでやりたいことがやれないのは、小さな家で立ち上がろうとしても頭がぶつかってしまうようなものである。

実に下らん」

そして

遂払衣長往、帰遯於嵩山。

遂に衣を払いて長往し、嵩山に帰遯せり。

とうとう辞職して、上着のほこりを払って身づくろいをすると、嵩山に逃げ去って隠遁してしまった。

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五代・王仁裕「開元天宝遺事」巻上より。

みなさんの乗っかっているのは氷山ではないんですか? なんで気づかないのかな。

 

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