←ブタ人間。彼は冷静な観察者である。
今日はベトナム側の観点から。
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茹福という漁師がおりました。
ある日、海に漁に出たとき、二頭の牛が海岸で闘っているのを目にした。牛たちはしばらく闘うと
躍入水没。
躍りて水に入りて没す。
海中に躍り入って、沈んでしまった。
「不思議な牛だなあ」
と思いながら、
視地上有落毛、取呑之。
地上に落毛の有るを視、取りてこれを呑む。
二頭の牛が闘っていた海岸の地面をよく見てみると、牛のものと思われる毛が落ちていた。茹福はそれを拾い上げ、呑みこんだのである。
すると、からだ中にモコモコと力が湧いてきたようで、ついにこれ以降、
履水如飛、亙数日伏海底不出。
水を履むこと飛ぶが如く、数日に亙(わた)りて海底に伏して出でず。
水面を飛ぶように歩くことができるようになった。また、数日の間、海底に隠れたまま、水面に出て来なくてもいられるようになったのである。
サイボーグ008のような能力を身に着けたのです。
―――そのころ、元が侵攻してきたのである。
数千の船に分乗した元の水軍は瓘寧湾の入口に停泊して、上陸の機会を狙っていた。
越南側ではその大船団に斬り込む決死隊を募ったので、茹福はこれに応募し、
潜身艘底、手鉄錐穴之、三日夜沈艘無計。
身を艘の底に潜め、鉄錐を手にしてこれに穴し、三日夜に艘を沈むこと無計なり。
潜って船の底に至り、鉄の錐で船底に穴を開け、三日三晩のうちに数え切れないほどの船を沈めた。
元軍は大いに驚き、軍船の間に網を拡げて茹福を捕らえたのであった。
船上に引き上げられて、
「おまえひとりでこんなに多くの船を沈められるはずはあるまい。ほかにどれぐらい仲間がいるのか?」
と問われた茹福、答えて曰く、
尚数十百人、匿某港之某処。我導之前、可尽得也。
なお数十百人、某港の某処に匿る。われ、これを前に導けば、ことごとく得べし。
「わしの仲間はまだ数百人も居って、某港のどこそこに隠れているのだ。わしに褒美をくれるなら、わしはおまえたちをそこに案内してやろう。そうすれば一網打尽だ」
元軍は
「このようなやつがあと数百人もいるとは怖ろしい。それを一網打尽にできるなら褒美をたっぷりくれてやるが、逃げられないにしておくぞ」
と、茹福を縛り上げたまま船首に立たせて案内させた。
茹福はとある海峡まで来たとき、
忽挺身跳入水去。
たちまち挺身して跳ねて水に入りて去る。
突然、縛られたまま身を躍らせ、海中に飛び込んだ。
「やや、逃げたか」「あるいは足を滑らせたか」
と兵士ら海面を覗き込むに、
旋聞船尾有声、某在此。
たちどころに船尾に「某ここに在り」と声有るを聞けり。
驚いたことに、もう船尾の方から「わしはここじゃ、ここじゃ」と呼ばわる声を聞いた。
「あ、あそこに」「船の下を潜ったか」
という間に船は傾き始めた。船底に穴を開けられたのである。
「うわあ」「沈むぞ」「ええい、共連れじゃ!」
兵士ら海面に向けて無数の矢を射かけた。
すると、
須臾海大風、波濤洶湧。
須臾にして海に大風ありて、波濤洶湧せり。
突然、海に暴風が吹き荒れ、波が激しくうねりはじめたのであった。
その波の中、
水中千百頭並出、如魚龍乱舞。
水中に千百の頭並び出で、魚龍の乱舞するが如し。
海中から数千・数百の茹福の頭が並び現れ、まるで魚や龍が乱れ泳ぐかのように動き回った。
この嵐の中、狭い海峡部で身動きがとれないまま、おびただしい数の元船が沈められたのである。
生き残った兵士らは、
何海人之神也。
何ぞ海人の神なる。
「なんと海の人の神秘的なことよ!」
と驚き畏れ、ついに逃げ去ってしまったのであった。
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陳朝・仁宗の紹宝七年(1285)、陳興道が元を撃退したときのことだそうです。すごいなあ。阮鼎臣「喝東書異」より。
(韓国のフェリー事故を連想させてマズい?)