やっと木曜日。あと一日。さきほど家に帰ってきましたが―――
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(その一)
南朝の宋の時代、元嘉年間(424〜453)のこと、李道豫という貴族が自宅に戻ったところ、
其家狗卧于当路。
その家の狗、当路に卧したり。
飼っているイヌが、通り道に寝ていた。
「じゃまだ」
豫、蹴之。
豫、これを蹴る。
李道豫は、イヌを蹴とばした。
すると、イヌ曰く、
汝即死、何以蹋我。
汝、即ち死せんに、何を以て我を蹋(ふ)むか。
「おいおい、おまえさんはもうすぐ死ぬのに、どうしてわしを蹴とばすんだ?」
道豫は呆然としてイヌを見つめたが、イヌは道豫の方をちらりと見ただけで、ゆっくりと門から出て行った。
その日から家人と話しているときもぼんやりするようになり、
未幾豫死。
いまだいくばくならずして、豫、死す。
しばらくもしないうちに、道豫は死んだ。
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(その二)
同じころのことだそうですが、東陽郡の令であった卞伯玉というひとが帰宅したとき、
竈正熾火、有鶏遥従口入。
竈、まさに火熾(さか)んなるに、鶏の遥として口より入る有り。
ちょうどカマドに火がさかんに燃えていたが、そのカマドの口に、一羽のニワトリがふらふらと入り込んで行ったのであった。
「なんだ、あのニワトリは」
と驚いて見ていると、
良久乃沖突而出。
やや久しくしてすなわち沖突して出づ。
しばらく時間が経ってから、ニワトリは元気に飛び出してきた。
ヤキトリにもならず、
毛羽不燋、鳴啄如故。
毛羽燋(こ)げず、鳴啄もとの如し。
毛も羽は焦げてもいないし、鳴いたり啄んだりするのもまったく元どおりであった。
「? なんだったんだろう?」
首をひねりながら伯玉は官服を脱ぎくつろいだのであるが、その日の夜に床に入ってからはもう立ち上がることができず、そのまま
病殞。
病に殞(そこな)わる。
病気で死んでしまった。
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といったような凶兆は見なかったので、明日も無事で過ごせると信じて寝ます。いろいろ不吉な予感(しごと関係)はあるけど。
(その一)(その二)はいずれも南朝宋・劉敬叔「異苑」巻四より。