シゴト爆弾の落ちている場所はわかるのに、そこを避ける方法がわからないのだ・・・。
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南朝の宋の初めごろ(420年代であろう)、淮南郡で、
有物取人頭髻。
物の、人の頭髻を取る有り。
何物かが、人の、頭頂部で髪を束ねた「もとどり」をむしり去っていく事件が多発した。
被害者は日暮れの暗がりや夜の闇の中で突然襲われ、犯人の姿を見ることも無く「もとどり」だけをむしりとられるのである。それ以外ひとを傷つけるでもなく他のモノを盗むでも無いので、生き死ににかかわるという事件ではないのであるが、チュウゴク(特に古代・中世のころ)では髪には人間の霊力が宿ると観念されていたから、ひとびとはこの事件を大いに恐れ気味悪がって、社会不安を醸すまでになった。
時に淮南太守・朱誕なるひと、
吾知之矣。
吾これを知れり。
「わしはそれがナニモノのしわざか、知っているぞ」
と言い出した。
さらに、
「おそらくソレを知っているのはわしだけであろう。わしが退治してやる」
と豪語したのであった。
朱誕は自ら町中を見て回ったが、ある家のかたわらで立ち止まり、
「ここだ」
と頷くと、部下に指示して、
多買黐以塗壁。
多く黐(もち)を買いて以て壁に塗る。
大量の鳥もちを買ってきて、その家の壁に塗らせた。
「これでソレを捕らえることができるのだ」
「ははー」
ひとびとは半信半疑であったが、太守さまが言うのであるから恐れ入っておくしかない。
夕有一蝙蝠大如鶏、集其上、不得去。
夕べ、一蝙蝠の大いさ鷄の如き有りてその上に集(と)まり、去るを得ず。
日暮れ方、一匹のニワトリのように大きなコウモリが戻ってきて、その壁にぶらさがって止まったが、トリモチに引っ付いてそこから動けなくなってしまった。
「これだ。それにしてもでかいな」
朱誕の指示するまま、ひとびとはこの大コウモリを捕らえ、殺した。
コウモリを捕らえた壁の下には
鈎簾下已有数百人頭髻。
鈎簾の下、すでに数百人の頭髻あり。
簾が懸けられていたが、その簾の下には数百人分の「もとどり」が溜めこまれていたのであった。
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朱誕の博識、まことに嘆ずべきでありますが、なぜコウモリのしわざだとわかったのか? なぜそこが隠し場所だとわかったのか? というか、なぜこのコウモリはこんなものを集めていたのだ?髪フェチか?・・・などの途中の手順はまったく記録されていません。ならばSTAP細胞の作り方を自分だけが知っている、というひとがいてもおかしくはないのカモ。