岩窟に寄せる波の音、鳥たちの声。
おいらはこのたび現世を離れた自由人になりました。この間まではほんとにめんどくさいところに住んでいたものだが、思い立ってこちらの「ほんとの世界」に来たらなんとも清々しい日々である。
今日も岩窟に、風にのって歌が聞こえてきます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
世人都暁神仙好、 世人すべて暁(あき)らかなり 神仙は好しと。
惟有功名忘不了。 これ功名のみ忘るること了せざる有り。
古今将相在何方、 古今の将相、何方(いずく)に在りや、
荒冢一堆草没了。 荒冢一堆、草没し了す。
世の中のひとはみんな、仙人の生活がいちばんいい、と知ってはいるが、
どうも成功と名誉の魅力だけは忘れてしまうことができないようじゃ。
でもでも、いにしえより今に至るまでの、偉大な武将・偉大な政治家、彼らはいまではどこにおるのじゃ?
荒れはてた墓のひと山の土の下、草の中に隠れてしまっちゃってる。
世人都暁神仙好、 世人すべて暁らかなり 神仙は好しと。
只有金銀忘不了。 ただ金銀のみ忘るること了せざるあり。
終朝只恨聚無多、 終朝ただ恨むらくは聚(あつ)むることの多きこと無きを、
及到多時眼閉了。 多きに到るの時に及べば、眼閉ざし了す。
世の中のひとはみんな、仙人の生活がいちばんいい、と知ってはいるが、
どうも金貨・銀貨の魅力だけは忘れてしまうことができないようじゃ。
でもでも、一日中あくせくとお金が集まってくるのが少ないと嘆いていても、
やっと多くなったときには、もう死期が来て、目を閉じるときとなってしまっちゃう。
世人都暁神仙好、 世人すべて暁らかなり 神仙は好しと。
只有姣妻忘不了。 ただ姣妻(こうさい)のみ忘るること了せざる有り。
君生日日説恩情、 君が生ける日々に恩情を説くも、
君死又随人去了。 君死なばまた人に随いて去り了す。
世の中のひとはみんな、仙人の生活がいちばんいい、と知ってはいるが、
どうも美しい女の魅力だけは忘れてしまうことができないようじゃ。
おまえさんが生きているときは毎日毎日、愛している愛していると囁いていても、
おまえさんが死んでしまったら、他の人のところに去って行ってしまっちゃう。
世人都暁神仙了、 世人すべて暁らかなり、神仙は好しと。
只有児孫忘不了。 ただ児孫のみ忘るること了せざるあり。
痴心父母古来多、 痴心の父母は古来多きも、
孝順子孫誰見了。 孝順の子孫、誰か見了せん。
世の中のひとはみんな、仙人の生活がいちばんいい、と知ってはいるが、
どうも子どもや孫を愛する気持ちだけは忘れてしまうことができないようじゃ。
親バカのおやじとおふくろはどんな時代にもわんさかいるが、
親孝行で素直な子どもなんて、誰も見たことなかったんじゃないか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「仙人」を「海賊」に換えると「カリ○の海賊」みたいで爽やかな歌ですねー。
これは清・曹雪芹「紅楼夢」の第一回で、老道士・跛足道人が、杖を曳きながら現世の無常を教えようと歌ってくださる「好了歌」(やめちゃうといいよの歌)である。
心洗われるなあ。これを聞いてなお現世に執着するようなひとなんていないだろうに・・・。あ、もしかしたら、みなさんの住んでいるところには、あの歌声は届かないのかな?