明日も休み。ほんとに安らかな気持ちだ。安らかな気持ちで書物を開く―――
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わたし(←肝冷斎にあらず、唐の張鷟)、ある日、古い医書を開いて見ると、こんなことが書いてあった。
虎中薬箭食清泥。
虎、薬箭に中(あた)れば「清泥」を食らう。
トラは、毒矢が当たったときは、「清泥」を食べて解毒する。
「清泥」というのは白っぽい泥土のことであろう。
このほかにも、野猪が毒矢に当たったときはある種のナズナ?のような草を食べて解毒すること、雉が鷹に襲われたときには地黄という草の葉を傷口に貼り付けること、さらに
礬石可以害鼠。
礬石以て鼠を害すべし。
ミョウバンによってネズミを退治することができる。
などが書いてあった。
「ほんとうかなあ」
と思いましたので、わたしは試してみることにした。しかし自分でいろいろ飲むのはイヤなので、まずネズミを捕まえた。
これにミョウバンを与えて、近くに泥汁を容れた碗を置いてみる。
鼠中毒如酔、亦不識人、猶知取泥汁飲之、須臾平復。
鼠、毒に中りて酔うが如く、また人を識らざるも、なお泥汁を取りてこれを飲むを知り、須臾にして平復す。
ネズミは中毒して酔ったようにフラフラしはじめ、わしというニンゲンが傍で見ているのにも気づかぬようであったが、やがて近くに泥汁があるのに気づくと、まるでその解毒力をよく知っていたかのようにこれを飲んだ。すると、しばらくしたらもとに戻った。
さてさて。
鳥獣蟲物猶知解毒、何況人乎。
鳥・獣・蟲・物すらなお解毒を知る、何ぞいわんや人をや。
鳥やケモノや小さな生き物たちまで毒に当たったときの解毒法を知っているのである。どうしてニンゲンが知らないでいい、ということがあろうか。
そこでわたしの知った解毒法をメモしておきます。
○カイコに咬まれたときは、カブトムシを粉にしてこれを塗ればいい。
○馬に咬まれたときは、鞭を焼いて、その灰を塗ればいい。
○蜘蛛に咬まれたときは、雄黄の粉末を練って塗る。
何かあったときの参考にしてください。
また、蜀地方の出身者に
○筋断須続者
筋断たれて続けんとする者
筋(靭帯)が切れてしまったとき、これをつなぎなおす方法
を聞いたので、メモしておきます。
取旋復根絞取汁、以筋相対、以汁塗而封之、即相続如故。
旋復の根を取りて汁を絞取し、筋を以て相対せしめ、汁を以て塗りてこれを封ずれば、即ち相続すること故の如し。
センプクという植物の根を取って、これを絞って液汁を得る。靭帯の断裂した両側を接触させ、そこにこの液汁を塗りつけて、その上から包帯等をぐるぐる巻きにして外気に触れないようにしておく。こうすれば、短期間で靭帯はもとのようにつながりなおすのである。
けだし、
蜀児奴逃走多刻筋、以此続之、百不失一。
蜀の児奴、逃走して多く筋を刻まるも、ここを以てこれを続ければ百に一も失わず。
蜀の地方では、奴僕が逃亡しようとして捕まると、二度と逃げられないように靭帯を切られてしまうのである。しかし、この方法を使うとつながりなおすこと、成功率は99パーセント以上である。
とのこと。
こちらはわたしは試してみてはおりません。
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唐・張鷟「朝野僉載」巻一より。たいへん勉強になる書物です。しかも、さすがはチュウゴク文学らしく、後半は非人間的な支配者の論理が垣間見えて残虐でございました。週末の心安らぐ夜にふさわしい一冊であろう。