週末まで遠いなあ(その前に終末が来たりして)。あまりに週末が遠いので、暇つぶしに下らぬお話でもいたしましょう。
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南朝の宋の時代、大明年間(457〜464)の初めごろ、ということでございますが、武官の柳叔倫が身分不相応なほど立派な御屋敷を借りることができたのだそうでございます。この屋敷は、とある王族のお住まいであったそうですが、その方は地方にお移りになられたので空き家になったのだということでありました。
引っ越して数日したある日、叔倫が部屋で書見をしながら何の気無しに庭の方を見たところ、
忽見一脚跡長二寸。
たちまち見る、一脚跡の長さ二寸なるを。
何の前触れも無く、庭に長さ5〜6センチの小さな足跡がついた。
「?」
目をこすってみたが、そこには誰もいない。なのに、二歩、三歩・・・。足跡だけが、点々とついていくのである。
「な、な、なんだ?・・・」
叔倫は書を棄て、近くにあった刀を握りしめて立ちあがった。
その間にも足跡は庭先を進んで行き、下女の一人が洗濯をしているところに近づいたのであった。
そして、
空中有物傾器倒水。
空中に物有りて器を傾けて水を倒す。
虚空の中にナニモノがいるかのように、器が倒され、汲んであった水がこぼれ出た。
「きゃあ!」
叔倫は間髪を容れず、
「そこか!」
と
以刀斫之。
刀を以てこれを斫る。
刀でそのあたりに斬りつけた。
婢在側、聞有物行声。
婢、側に在りて、物の行く声有るを聞く。
下女は、すぐそばでナニモノかが逃げ出そうとする物音がしたのを確かに耳にしたという。
しかし鍛えられた叔倫の刀術の速さにはかなわなかったのか、
がちん!
覚有所中。流血覆地。
中るところあるを覚ゆ。流血、地を覆えり。
刀がナニモノかに確実に当たった。その瞬間、血が地面に落ち、たちまち一面に広がったのである。
その後、ばたばた、と激しい足音がして、それきり。
ナニモノかは地面に血流を残しただけで、空に舞ったのか地に潜ったのか、どこかに逃げて行ってしまい、とうとうその正体を見ることはできなかった。
「うーん、いったい何物だったのだろう」
さて。
後二十日、婢病死。
後二十日にして、婢病死す。
二十日ほど経つと、その下女は病に斃れてころりと死んでしまった。
叔倫は念のため、その亡骸を家の外に出して置くよう命じた。
次の日の朝になると、
覓尸不知所在。
尸を覓(もと)むれども所在を知らず。
亡骸はどこに行ってしまったものか、二度と見つからなかった。
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のだそうでございます。唐代・著者不明の「廣古今五行記」という本から「太平廣記」巻三百二十五に引用されているお話でございます。
みなさんも身分不相応の家に住むとコワいことがあるかも。気を付けてね。わたしは大丈夫です。3LDK家族用の身分不相応の部屋に住んでいますが、普段使っていない部屋が二部屋あって、そこからときおり原因不明の物音が聞こえるだけで・・・。