正しい忠告が通用するわけではないのです。
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17世紀のこと。
汝南の陳伯敏の家は、垣根にぐるりと取り囲まれていた。
術者謂不吉。
術者、「不吉なり」と謂う。
家相を見るひとがこれを見て、「不吉ですなあ」と教えた。
垣根を壊さないといけません、というのである。
しようがないので、親戚や隣近所の者を集めて垣根を壊すことにした。
拆至半、見一蛇、等児臂。
拆して半ばに至るに、一蛇の児の臂と等しきを見る。
垣根を壊して行って、ようやく半分ぐらい終わったとき、ヘビが現れた。その太さはこどもの腕ぐらいはあろうか。
「どうせこいつが不吉の元であろう」「やっちまえ」
ひとびとは垣根を壊すのに使っていた鉄鎚や鍤などを用いてこのヘビを打ち据えたのであった。
厥声鏗鏗然。
その声、鏗鏗然(こうこうぜん)たり。
ヘビを撃つと、かん、かん、と金属を叩いたような音がした。
と、ヘビは人々を見上げ、突然、
作人言。
人言を作す。
ニンゲンのようにしゃべりはじめたのだ。
「きみら、何でこんなことをするのかね」
ひとびと、驚いて顏を見合わせていると、ヘビが続けて言うには
祈勿傷我。我願他徙。否則爾等亦弗利。
祈(こいねが)わくば我を傷むるなかれ。我は他に徙(うつ)らんことを願う。否ならばなんじら等にもまた利せざらん。
「聴く耳があるなら、わしを攻撃するのを止めなさい。わしはほかのところに移って行くことにしよう。そうでないと、きみらもまたひどい目に遭うことになるぞ」
ひとびとは顏を見合わせていたが、誰からともなく、
「ヘビのくせに恫喝するのか」「こいつは変だ」「きもちわるいぞ」「やっちまえ」
ひとびとは
怪之、撃愈力。蛇即死。
これを怪しみ、撃つにいよいよ力(つと)む。蛇すなわち死せり。
気味悪がって、さらに強くヘビを攻撃した。ヘビは逃げられず、やがて力果てて死んだ。
「やったな」
ひとびとは何となく達成感を感じたそうである。
そして、その日は新月の夜だったそうであるが、月がまるくなってまた新月になる、その一回りもしないうちに
撃者七人、連続死。
撃つ者七人、連続して死す。
ヘビを攻撃した七人は、続けざまに死んだ。
のでございました。
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せっかくヘビが忠告してくれたのに・・・。数を恃んで考えの至らぬことをした者はついには滅ぶ、ということじゃ。清・諸畝香「明斎小識」巻十一より。