平成24年9月10日(月)  目次へ  前回に戻る

 

明日は休み。もう何にもしないよ、ぜったい。

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明の終わりごろです。

みなさんは、広西の桂林にある七星洞のことは有名だから御存じでしょう。(←注:肝冷斎は世界遺産などに詳しくないので知りませんが)

しかし、広東・端州にも七星洞があることはあまりご存じではありますまい。わたしは己丑の年(萬暦十七年(1589))の九月、満月のころに、地元の友人・黄化之を訪ね、彼の案内で端州・七星洞を訪れた。

黄化之と二人、虹橋を過ぎ、瀝湖に小舟を浮かべ、臨天閣に昇り、宝陀堂に月を見、流霞島で酒を酌み交わし、宝光岩、青羊石、栖霞亭、水月宮を巡ってみた。その間、花を尋ね草に寝転び、どこもかしこもすばらしいところであった。

その中でも特別にすばらしかったのは次の三か所である。

その一

「石室」といわれる洞穴。南側に入口があり、石の道がうねうねと中に通じる。奥からは流水とめどなく、あるいは池にようになっているところもある。「龍の泉」の左側から松明を手にして入って行くと、右に転じてはしごと石段を昇り、上に「石観音」がある。観音菩薩が海を渡ってこちらに来られる・・・かと一瞬見えるかのように、鍾乳石が天井から垂れ、まことに造物者の幻術かと思うような景観である。さらに奥の暗闇から風が吹き来たり、人の袖を翻すので、その先に進むと、ぐるりと裏側の岩肌の下に出、ここにあずまやがあって岩秀亭といい、そこに小舟が舫ってあって、洞の外を一周して遥かに入口まで浮かんで行けるのである。

その二

「蛟龍窟」という岩屋。流霞島の東にある。まず小さな洞穴があって、首をすくめながら通り抜けると向こう側には小さな流があって、向こう岸にわたるための懸橋がある。

ここに岩があって水上に大きくはみ出しており、その岩の陰が「蛟龍窟」だ。

ここには四方数丈の四角い舟が結びつけられていた。

黄化之が「おい」と声をかけると、その舟の中から起き出してきたのが彭士化と徐君羽で、ちょうど二人はそれぞれ仏教経典と荘子を読んでいるところであったらしい。彼らは風光の季節にはたいていそこで寝起きしているのだと言うて笑った。

舟から岩陰に登れるようになっており、そこに石のベッドと小さな机があった。

彭士化がにやにやしながら言うことには、

不知此外更有人世也。

知らず、この外にさらに人世のあるやを。

「おれはこの岩陰だけが自分の世界だと思っているので、この外にまた社会があるというのは知らなかったなあ。君はそこから来たのかね」

それを聞いて、みな大声で笑ったのであった。

この石のベッドの奥にも小さな穴があって、その穴に一枚の細長く平らな石がさしわたしてある。徐君羽が

「君、叩いていいよ」

と言ってまた笑うので、わたしは彼から棹を借りてその石を叩いた。

すると石を叩いた音は、まるで鐘の声のように穴の中に入って共鳴しあい、さらにぐるりとどこから出てきたのか、背後の水の上からも聞こえてきたのには驚いた。(洞穴がどこかにつながっているのである!)

その三

「玉壺亭」。瀝湖のひろびろとして鏡のような水面のほとりに、ごつごつした小山が四つある。どの小山からも、水面に飛び石がつながっていて、黄化之が「さあ、行こう」というのでその飛び石を伝わって湖の中に入って行った。水は清らかで水底の小石や小魚、蟹の類が見えるのである。飛び石を何十も踏んだ先の小島に、「玉壺亭」が設けられているのだ。

「さあ、すわりたまえ」

と化之が椅子のようになった石のいくつかを指さした。

坐石、分雲乗風泛月、翩翩乎仙哉。

石に坐すれば雲を分かち、風に乗じ、月に泛かび、翩翩乎(へんぺんこ)として仙なるかな。

その石に座ってみる。湖の上に沸き立つ霧はそこから左右に噴き出して行くようで、まるで風に乗り、雲の上の月光の海に浮かんでいるような錯覚に落ちた。まるでわたしはひらひらと飛ぶ仙人になったかと思ったのだ。

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以上。

ところが、庚寅の年(萬暦十八年(1590))の春から夏にかけての時候に再びこの地を訪れてみたが、

漲発断橋、石室、龍窟、咸浸不可入。

漲発して橋を断じ、石室、龍窟、みな浸されて入るべからず。

水が大いに増えて、虹橋は落ちてしまったし、「石室」も「蛟龍窟」も水面下になってしまった、ということで、洞内に入ることさえできなかった。

黄化之が元気無く言うには、

山霊怕忌人多取。

山霊の人の多く取るを怕れ忌むならん。

「山の精霊が、ニンゲンがあまりにいいところを知り過ぎてしまってはいけないと思って、われらを締め出したのであろうと思う」

と。

わしは笑って頷いてやった。

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明・浙江の王士性(元白道人)「五岳游草」巻七「游七星岩記」より。彭士化と徐君羽はどこに行ってしまったんでしょうね。水の底かな?

 

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