いい天気ですねー。わしを載せた一片の舟は、今、志布志湊に泊まっている。
舟に乗り合わせた老若男女どもちがわしのまわりを取り囲み、
「和尚様、ありがたいお話をしてくだされ」
と拝みます。
「そうじゃのう、今日はよい天気であるので、それに因んで天然禅師のお話をしましょうぞ」
わしは次のように話した。
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長慶四年(824)六月二十三日、丹霞山の智通天然禅師、弟子どもに向かって言う、
「今日はよい天気である」
ついで門人らに命じて、
備湯沐、吾欲行矣。
湯沐を備えよ、吾、行かんと欲すなり。
「風呂を沸かしてくれ。わしは今日出発することにするから」
どこに行くのであろうか。
弟子らはお湯を沸かして、禅師を風呂に入れた。
風呂から出てきてさっぱりした禅師は、笠をかぶり、草履を履くと、
「今回は誰もついてくる必要はないぞ」
とおっしゃられ、若いころからずっとついておられる杖を手にして、
「さて」
と、
垂一足。
一足を垂る。
片足を下ろそうとした。
その片足が、
未及地而化。
いまだ地に及ばざるに化せり。
まだ地面につかないうちに、もう死んでいたのであった。
齢八十六である。
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「ああ、ありがたや」
「死生一如のみ教えよ」
と老若どもが涙を流して歓喜するもむべなるかな。(こんなありがたいお話を、わしのところに聞きに来る人が現実にはいないのが不思議でしようがありませんが・・・)
「景徳伝灯録」巻十四より。さあ、わしらもそろそろ出発するとしますかのう・・・