あかん。さっき夜中のドライブから帰ってきて、駐車場に入るところで車擦ったった。ちょっと車体へっこんだ。
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心もへこんだ。
こんな夜は、現実逃避するしかないのだ。為すべきことは明日に回して、ブルースでも聞いてはやめに眠るしかないぜ。
所思兮何在。 思うところはいずくにかある。
乃在西長安。 すなわち西のかた長安にあり。
あたいのあのひとはどこにいるかしら。
あのひとは西のかた、長安のまちにいるのだ。
何用存問妾。 何をもって妾を存問す。
香鐙双珠環。 香鐙と双珠環と。
あのひとはあたいに何を送ってくれたのか。
香をたく皿と一揃いの珠の耳環。
あたいはうれしかったのよ。
それなのにさあ・・・
今我兮聞君、 今、我は聞く 君
更有兮異心。 さらに異心あり、と。
最近風のうわさであたいは聞いた。
あんたにいいひとができたらしいと。
香亦不可焼、 香もまた焼くべからず、
環亦不可沈。 環もまた沈むべからず。
お香はもう焚かないようにする。
耳環はもう水に沈めて占わない。
(当時、「環」を水に沈めて、思うひとの無事を祈る習俗があったのであろう。)
香焼日自歇、 香は焼けば日におのずから歇(や)み、
環沈日自深。 環は沈みて日におのずから深からん。
お香を焚けば毎日毎日減っていくばかりだし(あんたがもう送ってくれないだろうから)、
耳環を沈めれば毎日毎日沈んで行って、二度と耳環にもあんたにも会えないだろうから。
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これは晋の傅玄の「西長安行」(西のかた長安のうた)。(「玉台新詠集」巻二)
我が師・木偶庵老人(でくあんろうじん)お奨めのブルースである。
ところで、我が國には、次のような箴言がござる。
遊び上手なやつに だまされていると聞いた
噂だけだね 純子 純子 僕は淋しい (中略)
風は話をつくる だから噂はきかない
信じているのさ 純子 純子 便りをおくれ (遠藤実作詞・作曲、小林旭先生「純子」)
晋代の女の子も、この「僕」のように「だから噂はきかない」と現実逃避して開き直っておれば、わずかな間だけはなおシアワセでおられたじゃろうにのう。