みなさんの住む地方でも朝晩は涼しくなってきましたかな。わしは山中に隠逸の生活を送っておりますでな。みなさんのお暮しになるニンゲン世界の気温はまったくわかりませんのじゃ、うほほ。
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さて、晋の時代のことでございます。
月が少微という星座に差し掛かったことがございました。
天文官、奏上して曰く、
処士当之。
処士、これに当たらん。
「少微星は「隠者の星」(処士星)なれば、ゲンダイを代表するようなすぐれた隠者に何か不幸があるしるしでございます」
と。
都に近い呉の地方の隠者・戴逵(たい・き)はその占星を聴いてたいへん心配し、親しいひとに別れを示唆するようなことを言いだしたので、ひとびとは注目しておった。
ところが、
俄而敷死。
俄にして敷、死す。
そこへ、会稽山に隠居していた謝敷(しゃ・ふ)という隠者の訃報がもたらされた。
戴逵には何もございませんでした。
会稽の町のひとびとは歌い囃して、
呉中高士、一時求死不得。
呉中の高士、一時に死するを求むるも得ず。
呉の高尚なお方さま(戴逵のことである)は、(うちの方の隠者さま(謝敷のことである)と)同時に死んでしまいたかったろうに、大失敗。
そして大笑いした、ということである。
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笑うのもどうかと思いますが。「晋書」巻94「隠逸伝」より。
夏も終わりかけてきて、わしは最近ずっと体調が悪い(ような気がする)。月が少微星のあたりに来ておるのかも知れませんのう・・・。