今日はあぢかったですねー。関東全域で35度ですたよ。こんな暑かった日は暑い暑い亜熱帯のお話をいたしましょう。
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宋の時代。
広西の少数民族の酋長・凌鉄が差別待遇に憤懣やるかたなく反乱を起こした。
中央から派遣されてきた鄭という役人(異民族は徳を以て治めるべきである、というスローガンのもと、一兵も与えられず、軍資金も現地調達で派遣されてくるのである)が、差別待遇を止めることと反乱を罰しないことを約束したので、凌鉄とその部下たちはおとなしく降伏してきた。
すると、鄭は
殺降。
降れるを殺す。
降伏してきた者たちを殺してしまった。
「おのれ、必ずや・・・」
凌鉄はすさまじい目で鄭を睨み据えながら、斬られた。
「ふん」
鄭は報告書を作成し、中央には討伐に成功したと報告したのである。
ところが、いまだいくばくも無く、中央からの栄転か褒賞の知らせを待っていた鄭が急死した。
その場に居合わせた者たちの言によれば、鄭は死の間際まで特段変わったところが無かったが、白昼突然、
若有所睹。
睹(み)るところあるがごとし。
何かを見たようであった。
恐ろしい物が目の前にあるかのように顔を歪め後じさりしながら、
「おのれ、何を血迷うたか!」
とすさまじい目で虚空を睨み据えながら、突如血を吐き、そのまま昏倒して息絶えたのである。
凌と鄭。二人はともに、それぞれに無念であったであろう。・・・・・・・
さて、その後しばらくすると、広西の群巫(たくさんのシャーマンたち)が、次々と
有二新聖。
二新聖あり。
―――新しくお二方の精霊が御あらわれになられた。
と口にしはじめた。
シャーマンたちは神がかりになりながら言う、
必速祭、不然癘疫起矣。
必ず速やかに祭れ、しからざれば癘疫起こらん。
―――できるだけ早くお二方の精霊をお祀り申し上げるのじゃ! そうしなければ恐ろしい疫病が流行することになるであろうぞ!
シャーマンたちの言葉に信仰心篤い広西の人民は、
里巷大喧、結竹粘紙為轎馬旗幟器械、祭之于郊。
里巷大いに喧(さわ)ぎ、竹を結び紙を粘りつけ、轎・馬・旗・幟・器械を為して、これを郊に祭る。
村でも街区でも大騒ぎをして、竹を組み合わせたものに紙を貼り付けたもの(二神を象った人形であろう)を先頭に、引き車、馬、旗、のぼり、もろもろの機材を持って行列をし、町の外で(人形を焼いて)祓いの祭りを執り行った。
その時、シャーマンたちの呼びかけに応じて、人民たちは
家出一鷄。既祭、人懼而散。
家ごとに一鷄を出だす。既に祭れば、人懼れて散ず。
一家ごとに一羽のニワトリを捧げものに引き連れてきたのだが、(人形を燃やす)祓いの祭りが終わると、近いところにいる者に祟り神が憑りつくのを恐れてみな逃げるように家に帰っていった。
そこで、
巫独携数百鷄以帰。
巫、ひとり数百鷄を携えて以て帰る。
シャーマンは、ひとりで残されたニワトリをとり集めて、連れて帰ってしまった。
あははは。なんというオロカな人民でしょうか。ニワトリを指導者であるシャーマンに、いわば合法的にだまし取られたのだ。われわれはこんなオロカな騙され方はしないけどなー。マスコミも適切な情報を提供してくれているし。ね、みなさん。
しかも、その後、
歳歳祠之、巫定例云、与祭者不得罪胙。
歳歳これを祠(まつ)り、巫、定例に云うに「祭に与(あずか)る者、罪胙を得ず」と。
毎年毎年同じ季節にこの二精霊の祭りが行われ、そのときシャーマンたちはいつも「この祭りに参加した者は、罪にけがれた捧げものを持って帰らないようにせよ」と呼びかけたのである。
「胙」(ソ)は「ひもろぎ」。神祭りの際に神に捧げる肉類。本来なら祭りの後、なおらいの宴会にこの肉は煮て、神と祭りに参加した人間が「共食」(ともに食らう)するものなのですが、この祭りでは、犠牲に移されたケガレが強すぎるので、ひとびとの手には戻してはいけないという決まりになったのだ。
ひとびとが持って帰れなかった捧げもの(たいてい生きたニワトリ)は、すべてシャーマンたちのものになった。
故巫歳有大獲。
故に巫、歳ごとに大獲あり。
このため、シャーマンたちは、毎年毎年大儲けすることになったのである。
ゲンダイ(南宋の時代)でも、特に広西の中でも欽州地方でこの祭りは最も盛大に行われている。
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宋・周去非「嶺外代答」巻十より。
あっはっはっはっは、ああっはっはっはっは・・・、はあはあ。ああ可笑しくて息が止まりそうになるほどです。このオロカな民どもは、一回のみならず、何度も何度も指導者に騙されたのだ。それでも自分たちは騙されたと気づかずに・・・あははは、本当に可笑しいですね。少しはわれわれ現代人のようにカシコくなってほしいなあ。いくら何でも我々は何度も騙されませんもんね。ね、みなさん。
明日は人間イヌとなる日・・・普段よりも早く起きなければ・・・なのにこんな時間に・・・。