変化の無い日々に飽き飽きした。今日は猟奇だ。猟奇の話をするぞーーー。
ということで、子どもは読んではいけません。
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同僚の陳無求の話。
―――鶴林寺に参詣したときのことでござるよ。長老が座末の若い僧侶を紹介してくれましたのじゃ。
長老の言うところでは、
此道人頗有戯術。
この道人、すこぶる戯術あり。
「この僧侶は、たいへんな術使いですぞ。」
「ほほう、それはそれは」
陳無求は好奇の念よりいささかの礼物を包み、その術を見せてくれと頼んだのだという。
僧侶は肯うと、美しい小僧(「僧雛」)を一人連れて来させ、彼に一碗の皿を持って自分から二丈(3メートル余り)ほど離れたところに立たせた。
そしてこの小僧に命じて言うに、
我此嘘気、汝第張口受之。
我はここに気を嘘す、なんじはただ口を張りてこれを受けよ。
「わしはここから気を吐きだす。うぬはそこで口を開けて、わしの吐き出す気を受け取るのじゃ」
「は・・・はい・・・」
小僧は、夢見るように長い睫毛をしばたたかせながら聴いている。
「ふふ、愛いやつじゃな・・・。よいか、一つだけ、注意事項がある。
覚腹熱急言、不爾、当焼爛汝腸也。
腹熱を覚ゆれば急言せよ、しかせざれば、まさに汝の腸を焼爛すべし。
ハラが熱くなったと感じたらすぐに言うのだ。そうしなければ、うぬの内臓は焼けてどろどろとなろうぞ」
小僧は美しい顔を少し赤らめながら、黙って頷き、言われるままに紅の唇を開いて、口を開けて立った。
僧侶は、その立ち姿をなめまわすように上から下へと見つめるとやがてにやりと一度笑い、
「さて、まいるぞ」
指に印を結び、小僧に向かって、
「くわーーーーーーー!」
と激しく息を吹きかけたのである。
小僧はしばらくその呼気を受けていたが、突然、
覚腸間如沸湯傾注、熱甚不可忍。
腸間に沸湯の傾注するが如きを覚ゆ、熱甚だしくして忍ぶべからず。
「はらわたの中に熱湯が注ぎこまれたようでござる! 熱い!熱うて、がまんがなりませぬ!」
と叫んで、身をよじった。
僧侶は、息を吐きかけるのを止め、
「よし、ここまでじゃ。・・・我慢するでないぞ!」
と有無を言わせぬ威厳で命じた。
「あ、・・・あい・・・・」
小僧は、さすがに恥じらいながらも、手にしていた皿の中になみなみと小便をしたのである。
僧侶、その小便の入った皿を受け取ると、座中のひとびとに高々とこれを示し、
誰能飲此者。
誰かよくこれを飲む者ぞ。
「どなたか、これを飲もうという方はおられますかな?」
と問いかけた。
誰も答えかねているうちに、僧侶
「かははははははーーーっ」
と大笑し、
挙盌自飲。
盌を挙げて自ら飲む。
皿を掲げるように持ち上げ、自分で飲んでしまった。
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―――はあ。
わたくし、こんな話を聞いてもオモシロくもなんともないのでございます。
しかし、陳無求はなお真顔で続けた。
明日、僧雛遂大悪聞食気、日唯飲水数杯。
明日、僧雛はついに大いに食気を悪聞し、日にただ水を飲むこと数杯なり。
翌日から、その美しい小僧はたいへんな吐き気に苦しめられて、毎日水数杯を飲むことしかできなくなったのじゃ。
その間に、術使いの僧侶は寺を出て行ってしまったが、小僧の方は一か月余りも苦しんだ後に本復した。ただし、本復するとすぐに
出寺、不復見也。
寺を出、また見えざるなり。
寺からいなくなってしまい、行方知れずとなったのじゃ。
―――おそらくあの僧侶の後を追うたのではないか、とみな噂したものじゃ。美しい小僧だったがのう・・・
―――はあ。
わたくし、ほんとに興味がないので、陳無求との仲もこれまでにございます。
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宋・何子遠「春渚紀聞」巻三より。こういう話のスキなひともいるかと思いまして、読者サービスにございますよ。