五代の終わりころのことでございます。
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太廟の下級神官であった廬嵩の家で、
釜鳴、竈下有如人哭声。
釜鳴り、竈下に人の哭するがごとき声あり。
カマが音を立てた。そして、カマのかけられたカマドの下からは、ひとが泣いているような声が聞えた。
いわゆる釜鳴現象です。日本でも多くの実例があります。
廬嵩は何かの前兆ではないかと心配し、カマドの前に祭壇を設け、お供え物をした。
深夜、廬嵩が夜を徹して祈りを捧げていると、
竈下有五大鼠、各如方色。
竈下に五大鼠の、おのおの方色の如きあり。
カマドの中から五匹の巨大なネズミが出てきた。この五匹、それぞれ赤・青・白・黒・黄の「方角の色」をしているように見えた。
五行説によりまして、各方角には、東=青、南=赤、西=白、北=黒、中央=黄色という五色が配属されております。これらが「方色」。昔、縁日の露店などで売られたいた「色つきのヒヨコ」みたいな色をしておられたのです。
この五匹のネズミ、ぞろぞろとカマドの中から這い出して来まして、
ちゅうちゅう。
尽食所祀之物、復入竈中。
ことごとく祀るところの物を食らい、また竈中に入る。
お供え物をすべて食い尽くしてしまったのです。食い尽くすと、
ちゅうちゅう。
またカマドの中に戻って行った。
――これは妖怪の類ではないか。
と翌日カマドの中を掘り返してみたのですが、五匹のネズミも見つからず、何の不思議なものも無かったのであった。
この年、廬嵩は選ばれて地方官となったのでございますが、それ以外には、特に変わったことはございませなんだ。
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「稽神録」巻二より。一体なんだったんでちょうね。
肝冷斎のようにコドモのような純粋なココロを持っていますと、わからないことも多いのでございます。