平成22年12月25日(土) 目次へ 前回に戻る
まだまだ週末!
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「戻」(レイ。もどる)という字は、「戸の下から犬が体をひねって出入りする」という字形なのだそうで「身の曲るを戻という」(説文解字)のだそうでございます。(※)
さて、ひとには一身にして「三戻」(さんれい。三つのひねくれ)を兼ねる者がある。唐の粛宗のころに中書令も勤めた李嶠がそれだったそうですが、
その1
性好栄遷。
性として栄遷を好む。
彼は性格的に出世することが大好きだ。
なのに、
憎人升進。
人の升進を憎む。
他人が昇進するのはなぜか大嫌い。
その2
性好文学。
性として文学を好む。
彼は性格的に美しい文章が大好きだ。
なのに、
憎人才華。
人の才華を憎む。
他人の華麗な文才はなぜか大嫌い。
その3
性好貪濁。
性として貪濁を好む。
彼は性格的に欲深で汚職も大好きだ。
なのに、
憎人受賂。
人の賂を受くるを憎む。
他人が賄賂をもらうのはなぜか大嫌い。
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ダブル・スタンダードというものなのでしょう。今でもいっぱいいますね。三つどころでないぐらい「戻」なひとたちが。宋・銭易「南部新書」丁巻より。どこかで言ったかも知れませんが、銭易(字・希白)はもと「五代十国」の「十国」の一つである「呉越国」の王子さまで、真宗皇帝のころには深い典故の知識と政治的判断力を評価されて翰林学士にまでなったひとです。何でこんなくだらないことを孜々として記録していたのであろうか。
(※)故・白川静先生は、(建物の内外を仕切る)「戸下に犬牲を埋めて呪禁する」を「戻」というのだ、という。そこは呪力がかかっているので、そこまでくると「もど」らざるを得ず、無理に通ろうとすると「ねじられ」たり「ひねられ」たりするのである。どんな字を調べても白川先生の所説には必ず「呪」「血」「犠牲」「肉」「詛」「傷」「骨」「屍」のどれか一つは出てくる。ほんとに読者を裏切りません。