浙江のひとはたいへんカエルを食べるのが好きなのだそうでございます。
しかし、カエルを食べるのを悪むひともおり、宋の沈夢渓(「夢渓筆談」の著で名高い新法党の大幹部)が銭塘の知事となったとき、これを食べることを禁じた。
すると、
自是池沼之蛙、遂不復生。
これより池沼の蛙、遂にまた生ぜず。
それ以降、池や沼にカエルが生息しなくなってしまった。
夢渓先生の任期が終わり、彼が開封に去ってしまうと、
州人食蛙如故、而蛙亦盛。
州人の蛙を食らうこと故の如く、しかして蛙また盛んなり。
州の住民はまたカエルをどしどし食い始めたのだが、そうしたらカエルはまたあちこちに生息しはじめた。
ひとびとは言うた。
「天がこのカエルというものを地上に生じたのは、われらの食い物とするためだったのだ」
かくして
食蛙益甚。
蛙を食らうことますます甚だし。
カエルを食うことはますます多くなったのである。
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読者の中には
「な、なんだ? なにが言いたくてこんな話をするのだ?」
と面食らうひとがいるかも知れませんが、何かが言いたいのではなくて、事実を呈示してみなさんの思索に役立てようとするのである。彭乗「墨客揮犀」巻六より。
ちなみに、明の大博物学者・李時珍大先生によりますと、
「カエルは、
四月食之最美、五月漸老、可採入薬。
四月これを食らうこと最も美、五月漸く老いて採りて薬に入るべし。
四月に食うと一番美味いのである。五月になるとだんだん熟してくるので、これを採取して薬にすることができるぞ。」
ということである。
痛み止めとか解熱剤などに使うそうであるが、
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妊娠食蛙、令子寿夭。
妊娠して蛙を食らわば、子をして寿夭ならしむ。
妊娠中にカエルを食うと、生まれた子どもが若死にする。
A小蛙食多、令人尿閉、臍下酸痛、有至死者。
小蛙食らうこと多ければ、ひとをして尿閉せしめ、臍下に酸痛あれば死に至る者あり。
小さいカエルを多く食べ過ぎると尿が出づらくなり、ヘソの下あたりに強い痛みが出てくれば死に至ることがある。
「・・・ので、注意が必要じゃ」
だそうです。(「本草綱目」)