私は河の水上(みなかみ)といふものに不思議な愛着を感ずる癖を持つてゐる。一つの流れに沿ふて次第にそのつめまで登る。そして峠を越せば其処(そこ)にまた一つの新しひ水源があつて小さな瀬を作りながら流れ出してゐる、といふ風な処に出会ふと、胸の苦しくなるやうな歓びを覚へるのが常であつた。
・・・というのはわたくしが書いたのではありません。若山牧水先生がむかしむかしにお書きになっておられる(大正十三年(1924)「みなかみ紀行」)。わたくしも先生の跡を慕いてたくさん峠を越えているのだ。定峰、志賀坂、十国、地蔵坂・・・。いろいろコワいです。
「そうか、おまえさんも峠越えが好きなのかね」
と若山先生が出てくるのもコワいので、続きはお盆開けにする。