困るワン。
@ある富豪、謀るところがあり、一人の男に言う、
「一千枚の銀貨をお前に与えるゆえ、
爾与我打死了罷。
爾、我がために打死せよ。
お前、わしのために死んでくれんか。」
そのひと、沈吟やや久しく、曰く、
只打半死、与我五百両如何。
ただ打半死、我に五百両を与うるは如何。
半分死にますので、わしに五百銀両をいただく、というわけにはいきますまいか。
Aあるひと、肖像画を描いてもらおうと画家に銀二分を支払った。
画家がやってきて難しい顔をしながらそのひとを前から見、横から見、後ろから見てスケッチし、
「完成品は後日お届けします」
と言うて帰って行った。
しばらく経つと、約束どおり、絵が送られてきた。
「どれどれ」
とできばえを見てみると、
画出一背像。
一背像を画き出したり。
ひとりのニンゲンの背後から見た姿が描かれていた。
年恰好から見て、どうやら自分のようである。
そのひと怒りて画家に、
「これはどういうことか。こういう肖像画があるものか」
と怒鳴り込むと、画家曰く、
我勧爾莫把面孔見人罷。
我は勧む、爾、面孔を把して人を見る莫きことを。
「わたくし、あなたさまのお姿を後世に遺すには、お顔をお見せにならない方がよかろうと思ったのでございます」
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いずれも清・乾隆のひととのみ伝わる遊戯主人の「笑林広記」巻九による。なお、Aの「銀二分」というのは、画の礼金としてはおそらく相場より安いのである。