ネズミこわい。
あといちにち・・・。・・・これがまた長い・・・。まあ宮仕えもあと数ヶ月だからがまんするか・・・
というような「本当に言いたいこと」はさておきまして、今日の論題は、
●魚の頭を不用意に棄ててはいかん。
ということであります。
建康の街に住むあるひと、魚を食って、頭を庭に棄てた。
俄而壁下地穴中有人乗馬、鎧甲分明。
俄にして壁下の地穴中に人の馬に乗る有り、鎧甲分明なり。
突然、壁の下の地面の穴から馬に乗った武士が出てきた。はっきりとよろいとかぶとをつけているのが見てとれた。
ただし、
人不盈尺。
人尺に盈(み)たず。
その武士は、背の丈一尺に満たなかった。
このころ(唐末〜五代)の一尺は31センチ程度といわれます。
ちなみにこの武士は馬上にあって、
手執長槊。
手に長槊を執る。
手には長いホコを持っていた。
その槊(サク。ほこ)で、
刺魚頭、馳入穴去。
魚頭を刺し、馳せて穴に入りて去る。
棄てられている魚の頭を刺し、そのままホコを担いで穴の中に入って消えてしまったのである。
――な、なんだね、今のは・・・。
一度目はさすがに夢かまぼろしかと思ったのだが、その後も魚の頭を庭に棄てるたびに、二度、三度と同じことが起こったので、そのひと、ついに
掘地求之。
地を掘ってこれを求む。
地を掘ってその正体を探索してみた。
壁の下の穴に沿って掘っていくと、
見数大鼠、魚頭在焉。惟有筯一隻。
数大鼠と魚頭在るを見る。筯(ちょ)一隻有るのみ。
大ネズミ数匹と魚の頭が出てきた。その近くには、箸が一本あるばかりであった。
「筯」(チョ)は「箸」。「一隻」は、二つで一そろえのものが一つだけ(すなわち一そろえの半分)あること。
箸一本が「槊」(ほこ)だったのではないか。だとすると、この大ネズミが「武士」だったのか。
しかし、
了不見甲馬之状。
了として甲馬の状を見ず。
どこにもかぶとや馬の姿をしていたものは見えなかった。
ので、ネズミが馬で、本体は別にあったのかも知れない。
不思議なことではあったが、
無何、其人卒。
いくばくも無くしてその人卒す。
それほど間を置かぬうちに、そのひとは亡くなった。
ので、悪い兆しであったことは確かなのである。
ああ、魚の頭さえ棄てなければ、このような兆しを見ることも無かったであろうに。
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五代〜宋、徐鼎臣「稽神録」巻二より。かぼちゃが馬車になる世の中だ、魚の頭も何かになるのでしょう。