↓ニンゲンは愚かだなあ。
江蘇・常熟出身で清の半ばに大司空となった徐栻さま。
・・・の孫に当ります徐汝譲は欽寰と号したが、家も富豪であったし本人も贅沢にして豪強な性格であったので、
揮金如糞土。
金を揮うこと糞土の如し。
お金を使うこと、ゴミや土のようであった。
いくつかの逸話が遺っておる。
1 満城金色
ある年の春、徐欽寰は下男に命じ、上海まで出て、金箔を樽にいっぱい買い求めてこさせた。
風の強い日を選んで、その樽を数人に担がせて常熟市内の十三重塔に昇らせ、その塔の頂上から
散之、随風颺去。満城皆作金色。
これを散じ、風に随いて颺去(ようきょ)させしむ。満城みな金色に作れり。
これをばらまかせたのである。金箔は風に乗って舞い上がり、飛び去って行ったのであるが、この間、空一面に金箔が躍り、常熟の町中が金色に染まっていたという。
「颺」(よう)は「風に舞い上がる」「風が舞い上げる」の意。
徐欽寰はそれを見上げながら盃を傾け、
春城無処不飛金。
春城ところとして金を飛ばさざる無し。
春の街角には、あらゆるところに黄金が舞っているのだ。
と詠じたそうじゃ。
2 楊梅澗水
徐欽寰はあるとき湖南の洞庭湖に旅をした。下男ども数十人がお供について行く。
湖のほとりで楊梅(ようばい。ゆすらうめ)を数十箱も買った。そして、雨の降った翌日に、これを谷川の中に漬け込んで、
遣人践踏之。
ひとを遣りてこれを践踏せしむ。
下男どもを遣わして水に漬けられた楊梅を足で踏ませた。
澗水下瀉、其色殷紅如血、遊人争掬而飲之。
澗水下瀉(かしゃ)するにその色殷紅にして血の如く、遊人争い掬してこれを飲む。
谷川の水は下流に注ぎ流れてくるのを見るに、楊梅の果汁が混じって、赤々と色づいて血のようであった。観光客たちはみな争ってこれをすくって飲んだ。
そうじゃ。
3 碗足街道
徐欽寰はあるとき南京に行って陶器店に入った。
碗を一つ求めようとしたのだが、なかなか気に入るものが無い。
あんまり時間がかかったので、店の主人が「たった一碗を求めるのに手間のかかる方だ」と文句を言ったところ、それがたいへん気に障った。
「このわしが一碗しか買わんじゃと?」
即問碗有幾何。
即ち碗幾何(いくばく)有るやを問う。
すぐに「この店には碗はいくつあるのか」と問うた。
主人が何千という数を答えると、
「よろしい」
とそれをすべて買取り、そのまま店の表に持ち出して、下男たちとともに
尽取而砕之。衢路為満。
ことごとく取りてこれを砕く。衢路(くろ)満を為せり。
数千の碗をすべて店の前で砕いてしまった。店の前の道は、割れた碗でいっぱいになってしまったほどであった。
形あるものはすべて壊れるのですから、しかたありません。
その後、その町内のひとびとは、碗のかけら(「碗足」)を埋め込んで、町内の道を舗装道路(「街道」)にしてしまった。
という。
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いずれもちゃんとした公共事業になっているし、徐欽寰はどうやら悪いひとではなさそうな気がします。王柳南「柳南随筆」巻二より。
明日やきう観に行くよ。興奮してどきどきしている。