おいらは肝冷斎。先週はあんまりアタマきたので会社に突撃し、取り押さえられてあやうく連行されそうになりましたが、そこで
ぼう〜ん
と樹木に変化したので、取り押さえたやつらは
「あれ? どこへ行ったのだ? こんなところに木があるだけで、隠れられそうなところはないんだがなあ・・・」
と大困り。おいらは行方をくらますことができました。いっしっし。
今日は休日なので樹木からニンゲンに戻ってみましたよ。さて、どこに行こうかな。
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唐の建中年間(780〜783)のこと、何諷という書生がおった。
この何諷、ある時、
買得黄紙古書一巻。読之、巻中得髪捲。
買いて黄紙の古書一巻を得る。これを読むに、巻中に髪の捲けるを得たり。
黄色い紙に書かれた古そうな巻物を買い取った。読んでいると、巻物の中から髪をくるりと巻いたようなモノが出てきたのであった。
直径四寸ぐらい。どこにも切れ目が無いのが不思議である。
「どうなっとるんだろう」
何諷はこころみに小刀で切ってみた。
すると、
断処両頭滴水升余。
断処の両頭、水を滴らすること升余なり。
切った両側から、液体がぽとぽとと落ちてきた。一升以上も出た。
残った髪を火にくべてみたら、
作髪気。
髪気を作す。
髪の毛のような臭いをさせて燃え尽きた。
「なんだったのだろうか」
後に道士と出会うことがあったので、このものの正体を知っているか訊ねてみたところ、
「ええー! なんという勿体ないことをー!」
と実に残念そうに言われた。
「はあ・・・」
「よろしいか。
蠹魚三食神仙字、則化為此物。名曰脉望。
蠹魚、三たび「神仙」字を食らえば、すなわち化してこの物と為る。名づけて「脉望」(みゃくぼう)と曰えり。
紙魚が「神仙」という二文字を三回食べると、変化してそれになるんです。それは「脉望」といいますね。
強いて「脉望」という名の意味を求めれば「天地の気がめぐる脈を見ることのできるもの」ぐらいのことになりましょうか。
さて、
夜以規映当天中星、星使立降、可求還丹。
夜、規を以て天中星を映当せば、星使立ちどころに降り、還丹を求むべし。
深夜、(その脉望の)円環の真ん中に天中星という星の光を当てることができれば、その星からの使者がたちまち降りてまいります。その使者は、何度も煉りあげた丸薬をくれます。
そこで、はじめてあなたがやったように脉望を切り、
取此水和而服之、即時換骨上昇。
この水を取り、和してこれを服せば、即時に換骨して上昇せん。
中から液体を取り出して、丸薬をそれに混ぜて服用すれば・・・、即座にあなたの骨は仙人の骨に換わり、あなたの体は空中に携挙されて仙界に行くことができるようになりましたのに・・・。
ほんと、もったいない。残念だなー!」
「そ、そうだったんですか・・・」
例の古書を引っ張り出して点検してみると、確かに数か所に蠹魚の食うた跡があり、そこに「神仙」と入れてみると前後が通じたのであった。
何諷はたいへん残念がった。
あまりにがっかりして病いに臥し、いくばくも無く卒したという。
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残念でした。もっと勉強してから古書を買うべきでしたねー。「原化記」より(「太平廣記」巻42所収)。
こんなことがあるかも知れないから古書店通いは止められません。ということで、おいらこれから古本屋を覗きに行ってきまっちゅ。
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