うっひっひ。(←明日への不安と恐怖で、ほとんど正気を喪っている。)
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現実逃避しまちゅ。
唐の太宗皇帝のころの太史令(国立天文台館長)であった李淳風は、洋の東西を問わず古代から中世にかけて登場し、多くの不思議なエピソードを遺したマジック・マイスター(大魔道士)の一人です。
ある晩遅くなってから宮中に太史令から上奏文が来た。
皇帝、開き見るに、
「今夜から北斗七星の光が動揺しはじめておりまっちゅ。どうやら、
北斗七星当化為人、明日至西市飲酒、宜令候取。
北斗七星まさに化して人となり、明日西市に至りて飲酒せんとす、よろしく候取せしめよ。
北斗七星どもはニンゲンに化けて、明日、都の西の市場に来てお酒を飲むつもりらしいでちゅよー。ようすをうかがった方がよろしいかと思いまちゅー。」
と書いてあった。
太宗、翌日、使者を遣わしてうかがわしむに、夕方になって
有婆羅門僧七人。
婆羅門僧七人あり。
西域から七人の僧がやってきた。
彼らは長安の西門に当たる金光門から都に入り、
至西市酒肆、登楼。
西市の酒肆に至りて登楼す。
西の市場にある酒場にやってきて、上の階の貸切部屋に入った。
そして、
命取酒一石、持椀飲之、須臾酒尽、復添一石。
命じて酒一石を取り、椀を持してこれを飲むに須臾にして酒尽き、また一石を添えたり。
「酒を百升持って来い」と命じて、椀に汲んでこれを飲み始めた。あっという間に百升の酒が無くなり、「もう百升持って来い」と命じてまた飲み始めた。
店の主人から
「どうもただものではございませぬ」
との連絡を受けて、皇帝の使者は酒場の貸切部屋に赴き、
「皇帝陛下よりの勅にございます。
今請師等至官。
今請う、師ら官に至らんことを。
どうぞ、ただいまから和尚さまがたは宮中にお見えいただきたい」
すると、七人の西域坊主どもはとりあえず鼻白んだようであったが、やがて額を叩き大笑いして、
必李淳風小児言我也。
必ず李淳風の小児の我を言えるならん。
「どうも李淳風のこぞうが、わしらのことを告げ口したらしいぞ」
「けしからんが勅命ならしかたあるまい」
とお互いに話あって、使者に向かっては
待窮此酒、与子偕行。
この酒を窮むるを待ちて、子とともに行かん。
「今ある酒だけ全部飲んでしまってから、おまえさんと一緒に行くよ」
と言うてまた椀で酒を酌みはじめた。
やがてそれも尽きたので、
「では行くか」「案内してくれ」
と立ち上がるので、使者、
「こちらでございます」
と
先下、回顧已失胡僧。
先に下り、回顧するにすでに胡僧を失えり。
先だって階段を降りながら、後ろを振り向いたときには、もう西域僧どもの姿は消えていた。
使者、驚き慌てて皇帝に報告すると、実はその宵から空に見えていなかった北斗七星が、ちょうどその時刻に天帝の宮殿である「天官宮」の星域に出現したところであったから、皇帝もたいへん不思議がったということである。
なお、
初僧飲酒、未入其直。及収具、於座下得銭二千。
はじめ僧飲酒するにいまだその直を入れず。具を収むるに及びて、座下に銭二千を得たり。
僧たちは入店したときに、前払いではお金を支払っていなかった。いなくなってしまったので
「飲み逃げかよ」
とぶつぶつ酒具を片付けていると、座席の下から二千貫の銭が出てきたのであった。
その額、ちょうどその晩かれらが飲み食いした額と同じであった、ということじゃ。
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「太平廣記」巻七十六より。
うっひっひー。ゆめまぼろしの非現実世界に現実逃避でちゅ。いや、もしかしたらこちらのまぼろしの世界こそが本当の世界かも・・・。
そうだ、現実なんて無い。無いんだ!
明日なんて来ない、月曜日なんて無いんだッ!