昨日はさぼったのではなくPCが立ち上がらなかったのである。今日も立ち上げるまでに一時間近く費やしたのである。
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建康の都統制にまでなった王権は生粋の武人であるが、目と目の間、鼻筋のあたりに矢傷があった。ある場でその傷について問うてみたところ、次のような話をしてくれた。
・・・王権は紹興年間(1131〜1160)の初めごろ、名将とほまれの高い韓世忠に従って福建の逆賊を討伐するために出陣したことがあった。
ある山村に野営したとき、前線に至りつく前のすさびにと、
挟弩往山間。
弩を挟みて山間に往く。
当時、得意としていた「いしゆみ」を小脇にして山中に入ってみた。
はるかに望むに、崖の向こうの樹上にカササギの作りかけの巣があり、その上では雌雄のカササギが集めてきた材料で巣づくりにいそしんでいるのが見える。
王権は狙いを定めて、いしゆみの引き金を引いた。
間髪の後、
ぎいい―――
と一声、確かに鳥の声がし、一羽が驚いて飛び立つのが見えた。はっきりとは見えないが、一羽を仕留めたのであろう。
「よし」
王権は得意な心持ちで崖を越え、カササギの巣のあった木の根元にたどりついた。
そのときである。
たしかに、誰かから背後から声をかけられたのだ。
使汝眼為箭所中、当如何。
汝の眼をして箭の中たるところと為らば、まさに如何。
―――おまえさんの眼球に矢が突き刺さったら、どんな気持ちだろうね?
振り向いてみたが、誰もいない。ただ、視線の彼方に、さっき逃げ出した方らしいカササギがこちらをにらみ据えているらしいのが見えた。
いしゆみをつがえようとしたが、おりあしく木陰に入ってしまい、狙うことができぬ。
まあよい。
王権は木の枝に巧みに足をかけ、カササギの巣をのぞき見た。
一鵲中目、宛転巣内、即死。
一鵲の目に中して、巣内に宛転して、即ち死せり。
一羽のカササギが、目に矢が突き刺さった状態で倒れ、死んでいたのである。
――目に?
王権は先ほどの声を思い出して、獲物に手を出すのを止めた。
悄然として木から降りた。
王権が降りたのと入れ違いに
ぎいい―――
と悲しげに鳴きながらもう一羽のカササギが巣に戻ってきた。
王権は何だかいたたまれない気持ちになり、
抜佩刀砕其弩。
佩刀を抜きてその弩を砕く。
腰にしていた刀を抜くと、脇に手挟んでいた「いしゆみ」に斬りつけ、それを砕いてしまった。
その後しばらくして―――
ついに賊軍と接敵して戦闘に入ったとき、前線の士官であった王権は自ら矢石の中に仁王立ちして兵士たちを叱咤していた。
その時、また、突然背後から声をかけられたのだ。
使汝眼為箭所中、当如何。
汝の眼をして箭の中たるところと為らば、まさに如何。
―――おまえさんの眼球に矢が突き刺さったら、どんな気持ちだろうね?
驚いて振り向こうとした瞬間、眉間に激痛が走った。
流矢集于鼻眦之間。
流矢の鼻眦の間に集えるなり。
流れ矢が、鼻と目の先の間に当ったのだ。
―――!
やじりは、王権が振り向きかけたところへ、鼻骨の堅いところに斜めにかすった形になったため、鼻の上の肉を削がれたものの突き刺さることはなく、一命にかかわる傷にはならなかった。
その場に倒れ、すぐさま後方に運ばれて手当てを受けたおかげで、
病金創久之、乃癒。
金創に病むことこれを久しくすれども、すなわち癒ゆ。
長い間、やじりの傷で苦しんだが、なんとか治療することができた。
そして、軍務に復帰した後、今に至るまで三十余年、再び傷を受けること無く過してきているという。
「それにしても」
と、王権は精悍な顔を歪めるように笑いながら、
去眼不能以寸。
眼を去ること寸を以てするあたわず。
「眼球から一寸も外れてはおり申さなんだ。
背後からの声が無ければ、見事におそらく右の目を射抜かれておりましたでしょうな」
と言うた。
王権はその後も王命にしたがってずいぶん敵兵は殺したが、
「抵抗せぬものは殺さぬようにだけはしております。・・・それがあの・・・カササギとの約束のような気がしましてな・・・」
とのことであった。
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宋・洪容斎「夷堅甲志」巻十九より。このところあんまり寒いからであろうか、後頭部から幻聴のようなものが聴こえる。脳内で血が洩れ出ているのかも。