(挂瓢)

「高士伝」に曰く、

むかしむかし、許由というひとあり。

家も家族も財産も、何物も持っていなかった。

世人、これを憐れんで、水を汲むための瓢箪を恵んでやった。

許由、しばらくはこの瓢箪を使っていたが、あるときこれを木に掛けておいたところ、風に吹かれてからんからんと鳴った。

許由はその音をうるさがり、ただ一つの所有物であった瓢箪をそのままにして、どこかに去って行ってしまった。

 

(曳尾)

「荘子」に曰く、

むかし、楚の王さまの使いがやってきて、荘周を召抱えて大臣にしたい、という王さまの言葉を伝えた。

荘周はその言葉を聞いて、ため息をつき、

「おまえは楚の王さまの祖先をお祭りする館に、大きな亀の甲羅が仕舞ってあるのを見たことはないのか」

と問うた。

使いは答えた。

「あの甲羅は、王さまの健康や軍事の占いをするための大切な祭器であると認識していますが?」

「あの大きな甲羅の持ち主であった亀は、死んで大切に取り扱われるのと、誰にも認められずに泥の中に尾を曳いているのと、どちらが望みであったと思うかな?」

「はて?」

「亀は、甲羅を館に仕舞ってもらうよりも、ここで泥の中に尾を曳いていたかったにちがいなかろう」

それを聞いて、使者は何度も頷きながら帰って行った。

 

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