行政法28(19.7.19)
5 行政審判
・行政委員会またはこれに準じる行政機関が、司法手続きに準じる行政手続きに従って行う審判のこと。大きく分けて、
@ 行政行為をするにあたって、その公正を保障するために審判手続きをとるもの(事前手続き・公正取引委員会の審決など)
A 当事者間の紛争の解決にあたって、公正を保障し当事者間の議論を尽くすために審判手続きをとるもの(事後手続き・労働委員会の裁定、特許審判など)
がある。Aについては、司法制度改革の中で、ADR(裁判外紛争調整手続)のひとつとして注目されている。
・アメリカの独立規制委員会(アメリカ型ボス支配による行政の腐敗に対応して生まれたとされる)が参考とされており、独立性、準立法・司法機能を持つこと、原則合議制機関が所管すること、などが特徴。(戦後、多数設置されたが、独立回復後に多くが廃止・改組された。近年、司法型国家システムへの変化の中で、再評価されつつある)
・準司法機関として次のような権限を持っているものもある。
○ 実質的証拠の法則・・・法律により、行政庁が行政処分を行うに当たって認定した事実について実質的な証拠があるときは、行政庁の事実認定が裁判所を拘束する(独占禁止法80条1項等)という法理。
○ 第一審管轄権・・・法律により、特定の行政庁の行政処分について、これを不服とする訴訟は、(地裁でなく)高等裁判所に提起させるもの。
全体補論
行政(法)をめぐる新しい動きについて
大きな流れとして、公法私法二元論の退潮やコモン・ローの考え方の導入、行政権の第一次判断権の考え方の弱まりなどが指摘されるが、より実務的な事項として、以下のような動きを挙げておく。
1 情報の共有化
近年、国民・住民と行政の「情報の共有化」が起こっている。すなわち、従来は、良質で大量の情報を「行政だけ」が持っていたが、次のような事情から、現在では、国民もほぼ同じ質・量の情報にアクセスできる状態となっており、情報の官民格差が無くなった。
@情報公開制度・・・行政の保有する情報を権利として入手できる。
Ae-governmentの普及・・・オンラインで行政手続きが可能(※)であり、地理的な不公平がなくなった。情報公開制度もオンラインで利用可能である。
B ITの発達・・・インターネットの普及などから、世界中の情報を官民問わず時間差無く入手できるようになった。(他の自治体、他の国の取組情報がすぐ手に入る。
もちろん、情報の適正性の問題、国民間の情報格差問題はあり、全国民・住民が行政と同様であるという状態ではなく、行政が情報において劣位にある国民の下支えをする必要は従前どおりあるが、「行政だけが情報を独占している」という前提で物事を進める理由も必要も無くなっていると考えられる。
※ 行政手続オンライン化・・・行政手続オンライン化法(行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律。平成14年)により促進されている。
・ 申請、処分通知等について、他の法令で「書面等により行うこと」とされている場合であっても、主務省令で定めればオンライン(電子手続)で行うことが認められることになった。(3条等)
・ 書面みなし規定(3条等)
・ 到達特例(ファイルに記録されたとき)(3条3項)
・ 電子署名の活用
2 官から民へ
「官から民へ」という改革目標自体は第二次臨調(1981〜)以来のものであるが、その内容は決してひとつの座標だけでくくれるものではない。
⑴ 規制緩和・規制改革の流れ
民間の活動について、公的な必要性から何らかの規制が行われてきた。これらの規制を止める、あるいは緩めることによって、民間の活動を自由にさせ、@ビジネス・チャンスを増やす、A民の側の負担を減らす、B官の側の負担(費用)を減らす、という流れがあり、1980年代には、「規制緩和」、その後、「規制改革」と呼ばれて現在に至っている。
この流れは、経済規制については可能な限り緩和していくが、社会規制については規制を合理化していくという考え方であるが、さらに、社会規制など必要な規制について、官が自ら行うのではなく、規制主体そのものを民に開放する、規制の民間委託という手法もある。検査の民間法人への委任などが@やBに資するものとして進められてきた。なお、規制に係る法令の制定については、行政手続法によりパブリックコメント制度が設けられているほか、新規ビジネスについての法令の適用関係を事前に確認するノーアクションレター制度(☆)も導入されている。
また、近年では、「市場化テスト」の形で、官が独占していた業務について、民間企業体を参入させる手法が試みられつつある。
☆ 法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)
・ 「行政機関による法令適用事前確認手続の導入について」(平成13年3月閣議決定)により実現。
・ 民間企業等が、実現しようとする自己の事業活動に係る具体的行為に関して、当該行為が特定の法令の規定の適用対象となるかどうかをあらかじめ所管行政機関に確認。当該機関が回答するとともに回答を公表する手続。
・ 対象はITや金融等の新サービス創出が活発に行われると想定される分野
⑵ 民営化の流れ
規制緩和も広義では民営化の概念に含まれるとされるが、狭義では、官ないしは半官の組織を半官ないしは民へと転換し、市場メカニズムをとりいれていく手法がある。JRの民営化、郵政民営化、独立行政法人制度の導入などの動きである。
⑶ NPMの流れ
1990年代以降英米(特に英国)で導入されてきたニュー・パブリック・マネジメントの流れも、わが国の行政制度に導入されつつある。この流れは、官民の業務のしかたの違い(法体系としては公法私法二元論に、会計としては「予算・決算制度」と企業会計の違いに反映されている)のない英米法系の「コモン・ロー」の考え方を前提としているため、その導入は、各種の法体系の改正にも及んでいる。
@ 行政組織や公務員への業績主義(成果主義)の導入
A 市場メカニズムの活用(市場化テスト、PFIの導入など)
B 顧客主義
C 組織のフラット化(部局→プロジェクトチームなど)
などがあり、行政評価法による政策評価制度(★)、PFI(▲)、指定管理者制度の導入(地方自治法)などがこの流れに入る。現在行われている公務員改革も、この流れが正当であると考えるパラダイムの中で議論されている。
★政策評価制度・・・行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年)により導入された。
・ 必要性・効率性・有効性の評価(各府省・政策評価委員会)
・ 統一性・総合性の確保(総務省・政策評価委員会)
・ 評価結果の公表・総務大臣通知
⑷ 官・民の協働
官だけで、あるいは官が優位性を持って行ってきた各種業務について、官と民の力の「協働」により企画・実施していこうという流れ。PFIもこの流れにあり、また、平成10年に法定NPO(非営利団体)についても、条例制定やまちづくりに参加する主体として認められている。
▲PFI(Private Finance Initiative)・・・「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(平成11年)によって導入された。
・ 公共施設等の整備、運営を民間の資金や運営ノウハウを活用することで、より効率的に行い、より住民の満足を高めようとする手法。
・ 公共施設について、@民間が建設・運営し、事業終了後行政に譲渡、A民間が建設して行政に譲渡するが、引き続き運営を続ける。B民間が建設・所有・運営することを可能にする法。企業会計が適用され、例えば建設費は初年度予算ではなく毎年度の損金の中に計上されていく。PFIによるか、従来どおりの公共事業システムでやるか、は総コスト計算により決める。
3 中央から地方へ
地方分権の推進の流れである。分権の受け皿を作るために特例市制度や市町村合併が活用され、さらに中身の問題として、法定受託制度や三位一体改革が進められてきた。現在、道州制の導入問題や新分権推進改革、国と地方の歳入分担などが議論されている。
なお、一連の改革によって、政策法務、NPMの先導、行政手続・行政情報公開などで国と法源を異にする条例の作成など、地方の法務業務の必要性が増している。
4 国際化
行政の活動は民間活動と密接に関連するので、そのあり方が国際水準を満たしていないと「非関税障壁」として諸外国の批判を浴びることにもなりかねない。(例えば、行政手続法は諸外国の圧力もあって制定された)
また、地方公共団体の国際基準(たとえばISO基準)の取得や、国・地方公共事業の国際市場での入札など、行政の活動は急速に国際化している。
5 公務員への信頼度の低下
官民の癒着を批判する流れの中で、国家公務員倫理法や談合防止法が制定された。さらに、公務員の業務体系自体の見直しが求められており、評価制度の導入のほか、総人件費の抑制や公務員制度の見直しが進められている。
今後、行政との関わりやいろんな報道・解説に接する中で確認・評価していってください。