行政法27(19.7.17)
4 行政事件訴訟A
⑷ 行政事件訴訟の類型
イ)公法上の当事者訴訟
@ 実質的当事者訴訟
抗告訴訟が行政庁の公権力の行使について争う「行為訴訟」であるのに対して、当事者訴訟は現在の権利関係を争う「権利訴訟」といわれ、構造上、民事訴訟と等しい。民事訴訟との違いは、争う権利が「私権」ではなく「公権」である、という点にある。
従来は、公務員の地位確認・俸給請求、損失補償の請求、国籍の確認などの訴訟に用いられてきたが、平成16年改正で「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が当事者訴訟の類型として例示されたため。今後、届出義務などの存否確認に用いられる可能性がある、といわれる。
A 形式的当事者訴訟
当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの。(土地収用委員会裁決への不服→実質は裁決への抗告訴訟の性質を持つ)
☆民事訴訟との差は、裁判管轄権を除くと大きくはない(少額訴訟でも簡易裁判所の管轄にはならない)。
ウ)民衆訴訟
国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、自己の法律上の利益に関わらない資格で提起されるもの。したがって、「法律上の争訟」ではない。法律が定めている場合に限り訴えを提起できる。
@ 選挙法に基づく選挙訴訟
A 地方自治法の住民訴訟(・・・住民監査請求を経て行われる。)
エ)機関訴訟
国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又は権限行使に関する紛争についての訴訟。行政部内の争いは法律上の争訟ではない。特に法律が裁判所の公正な裁定を求める場合にのみ提起できる。
@ 地方自治法176条(長と議会の争い)
A 地方自治法251条の5、252条の国等の関与に関する訴え
⑸ 行政事件訴訟の訴訟要件
最も基本的な行政事件訴訟である「処分取消し訴訟」の流れを見ながら、法的問題点をチェックする。
訴訟要件とは、裁判所に「却下」ではなく、本案審理に入って本案判決(棄却又は認容)を出してもらうための要件。以下のような要件が必要である。
@ 行政庁の処分の存在(「処分性」)
・取消訴訟は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の違法を主張してその取消を求める訴訟である。審理の対象となる「処分その他の行為」がすでに存在していることが要件となる。では、処分その他の行為とはどのようなものをいうのか。
○ 行政行為
○ これに準じる権力的行為
・ 一方的に国民の自由を拘束する権力的な事実行為・・・身柄の拘束、物の領置
・ 国民の権利を直接かつ具体的に決定づける法令
・ その他
・その範囲については、行為の「権力性」と、裁判所の判断対象となる程度に「紛争の成熟性」があること、が必要であるとされる。(参考3)
A 原告適格:自己の法律上の利益に関係のある違法を主張すること
・訴訟を起こすためには、訴える側に「訴えの利益」がなければならない。「訴えの利益」は、次の両面に分類される。
@)原告適格(主観的側面)・・・取消訴訟を提起できる者は、処分の取消につき「法律上の利益」(行訴法9条)をもつ者でなければならない。また、この「法律上の利益」の有無は、処分の根拠法令だけでなく、広く関連する法令の趣旨・目的をも視野に入れて、違法な処分によって侵害される原告の利益の内容や性質(財産権侵害か生命・身体への侵害かなど)、侵害の態様や程度を斟酌して判断すべきものとされる。(9条2項)(平成16年改正により2項追加)
原告適格を認める「法律上の利益」については、「法の保護する利益説」と「保護に値する利益説」があった。通説・判例は「法の保護する利益説」をとりつつも、近年、16年改正後の9条2項に盛り込まれた考え方をとってきており、現在においては両説の違いはほとんどないといわれる。(判例等の動きについて参考4)
※ 団体訴訟について
地域の環境団体や消費者団体など団体の訴訟提起をどう考えるか。集合的利益を守るための訴訟(団体訴訟)については、判例は消極的であるといわれる。(文化財保存運動団体が史跡の指定解除処分の取消を求めて提起した訴えについて、原告適格は認められなかった(最高裁平成元年6.20判決)。)
A)狭義の「訴えの利益」(客観的側面)
当事者に現実的な救済を与えることができるかどうか。取消し判決が下されても、既に処分に基づく工事等が実施されて原状回復が不可能な場合や、営業停止の期間が過ぎて処分が効力を失い、回復される法律上の利益がなくなった場合など、処分取消によって原告の救済が現実に達成できないのであれば、訴えの利益は認められない。(損害賠償や損失補償の問題にはなりうる。)
○ミサイル基地建設のために保安林の指定が解除された場合、保安林によって水害から保護されていた住民の指定解除請求について、(保安林にかわる)防水施設が完成すれば保安林の解除に関する訴えの利益は存しないとされた。(最高裁昭和57.9.9長沼ナイキ訴訟)
※期間の経過で処分が失効し、処分の取消の利益が無いように見える場合でも、なお処分取消の訴えの利益の残っている場合がありうる。(例は参考5を参照)
B 被告適格
行政事件訴訟法では、従来は行政主体である国・地方公共団体ではなく、処分等を行った行政庁を被告とするものとされていた(処分の取消だから、処分権者と争うという趣旨)が、平成16年改正で、国・地方公共団体を被告とすればいいこととなった(違法状態を排除するのが目的だから、権限の帰属者を相手にすればいいと考えられるようになった)(行訴法11条)。従前だと国家賠償は国を相手とすることになり、取消訴訟から賠償請求に転換するときは「訴えの変更」手続きを要したが、現制度ではすべて国を被告とすればいい。
C 裁判所の管轄
@)行政事件訴訟では、少額訴訟でも簡易裁判所の事物管轄に属しない。地方裁判所の管轄となる。(裁判所法24条)
A)土地管轄については原則は処分をした行政庁の所在地の地裁とされる(一般管轄)が、国を被告とする訴えは、原告の裁判籍を管轄する高裁所在地の地裁を選択することもできる。(特定管轄。行政訴訟法12条)
D 行政不服申立との関係
原則は「自由選択主義」である。国民は不服申立ができる場合には不服申立を行ってもいいし、すぐに行政事件訴訟を提起してもよい。ただし、租税関係など同種のものが大量に発生したり、専門的な観点からスクリーニングが必要なものについては、それぞれの法律で、先に不服申立を終えていないと訴訟提起ができないとしている場合がある。これを審査請求前置主義という。なお、その場合でも、無効の確認の場合は審査請求前置を要しない。
なお、平成16年改正で不服申立同様に教示制度が設けられた。
E 出訴期間
処分又は裁決のあったことを知った日の翌日から起算して、六ヶ月を経過すると提起できなくなる。また、処分の日から一年を経過しても同様。(行訴法14条)が訴訟要件。
⑹ 本案審理の進め方
以上の要件が満たされると本案審理に入るが、不服申立と同様、執行不停止の原則(民事保全法の仮処分の排除)が適用される。ただし、要件が満たされれば執行停止される制度があるほか、平成16年改正で「仮の義務付け・仮の差止め」制度が創設された。(37条の5)
※内閣総理大臣の異議制度・・・執行停止が申し立てられたときに、内閣総理大臣が裁判所に対し、執行停止決定の前後を問わず、異議を申し述べることができ、この異議があったときは、裁判所は執行停止等ができない(または取消す必要がある)という制度(27条4項)。裁判所に実質的審理の権限はないとされる。
@ 弁論主義と職権審理主義
・民訴246条の例により、原則として「弁論主義」が採用される。訴訟物は処分に違法性があるかどうか。
・「違法性」そのものが訴訟物であることから、実体的真実を発見するため資料を豊富にする必要性が高い、また原告と被告行政側に保有情報に格段の差があると考えられることから、審理について裁判所が指揮する「職権審理主義」に基づく特則が置かれている。
・職権による処分庁以外の行政庁や第三者の訴訟参加(行政訴訟法22条、23条)(利害関係者からの申し立てによる第三者・行政庁の訴訟参加もある。)
・釈明処分・・・裁判所から、当事者の主張を明らかにするために当事者に説明を求める制度(民事訴訟法151条等)。行政事件訴訟では、更に、裁判所は行政庁に対し、その保有する資料の提出を求めることができるとしている。(提出しなければ心証を害する)。平成16年改正により追加。(行政訴訟法23条の2)
・職権証拠調べ・・・必要があると認めるときには裁判所の判断で、証人喚問、物証提出、現場検証などを進めることができるとする制度。(職権探知ではない。)
A 違法性の判断時点
違法性の判断は、処分時点(処分時説)か判決時点(口頭弁論終了時)かについて争いがあったが、判例は処分時説をとっている。
B 証明責任 民事訴訟法では、自己に有利な法規の適用の要件事実について主張したい者が、証明責任を負う、とされる。行政事件では、
・行政庁が処分の適法性の証明責任を負う。
・裁量行為の場合、裁量権の逸脱、濫用の証明責任は、取消請求をする原告が説明するのが原則。
・例外的に、専門技術的判断の適否については被告行政庁に合理性の証明責任があるとされた。(最高裁平成4.10.29伊方原発訴訟判決)
C 判決
@)訴訟判決(却下)・・・訴訟要件を欠いている場合になされる判決
A)本案判決
イ)請求認容・・・原告の請求に理由があるとする判決。「処分を取消す」。処分の効力をただちに消滅させ、遡ってなかったことにする効力がある(「形成力」という)。
なお、特殊な場合として、裁判所が事実審理を行政府に差し戻すという場合がある。(実質的証拠法則に基づき、行政庁に事実認定の権限がある場合。独占禁止法81条など)
ロ)請求棄却・・・原告の請求に理由がないとしてこれを排斥する判決。
ハ)事情判決・・・処分を取消す場合であるが、公益擁護の観点から請求を棄却する判決。判決主文において、処分が違法であることを宣言する必要がある。