行政法25(19.7.10)
行政救済法・国家補償B
2 国家賠償(続き)
⑷ 関連法令(第四条・第五条)
○民法の適用
ア)国・公共団体の行う非権力的行為については、民法715条が適用される。(例・国立病院の医師の医療過誤)
イ)国家賠償法が適用される場合でも、私人の加害行為との関係では、民法719条が適用されて共同不法行為が成立する。
○その他特別法の定め
@)失火ノ責任ニ関スル法律・・・消防士が消防活動を終えた後、焼け跡で再び火事が発生し、被害が起こった。このような場合にも、失火法の規定(不法行為責任は失火の場合には適用しない。ただし重過失の場合にはこの限りではない)は適用される。(最高裁昭和53年判決)
A)郵便法・・・書留郵便等が届かなかったときは申出のあった額しか賠償しない、という規定(50条。旧68条)は、職員に故意又は重過失がある場合まで賠償を制限するのは違憲であるとされた(その後の改正で、職員に故意・重過失のある場合は全額賠償することが規定された)。(最高裁平成14年判決)
⑸ 訴訟上の手続
○ 行政行為には有効性はある(公定力)が、国家賠償請求に当たって、あらかじめ原因となった行政行為・処分の取消し・無効確認をしておく必要はない。
○ また、国家賠償請求権は民法上の損害賠償請求権と同様の「私権」と理解されており、通常の民事訴訟によって請求すべきもので、行政事件訴訟法は適用されない。(損失補償の請求は「公法上の当事者訴訟」とされ、行政事件訴訟のひとつとされる)
補足1 負担金について
「開発利益の社会還元」のための措置。公共事業で利益を得た特定人の利得を社会全体に還元する(利益の平均化。損失補償の逆、とも考えられます)。@道路法61条などの受益者負担、A下水道法19条などの原因者負担といった法律に基づく措置や、B開発要綱などに基づく行政指導によりマンション事業者などに教育負担金を求める法律に基づかない措置がある。
補足2 国家補償制度の谷間
違法で過失のある行為による損害は国家賠償、適法行為の損失には損失補償が対応するが、違法(客観的正当性を欠くこと)無過失な行為は、どこで救済されるのか。
・どのように注意しても起こってしまう予防接種事故
・無過失な人違い逮捕
現在では、これらの事項には刑事補償法や予防接種法によって特別の補償がなされるが、国家賠償に比べて低額である。 ※「深いポケット」の論理(Deep pocket theory)
3 行政不服申立て
⑴ 総論
・損害賠償のように、過去の損害に対してその補填を行うのではなく、現在も影響を及ぼしている又は及ぼそうとしている行政の活動(活動しないという不作為の状態を含む)について、それが国民の権利利益を違法(あるいは不当に)侵害する場合、国民の側から取消しその他の是正を求める制度が必要である。これを行政庁に対して求める制度が「行政不服申立て」である。
・@行政庁を牽制する権能を有する裁判所への訴えである「行政事件訴訟」に比べて、審査の公正さと違法な活動に対する権利救済の確実性という点では劣るとされるが、A訴訟手続に比べて時間・費用・労力が省け、簡易迅速に救済を得られやすい上、「司法」の判断ではないことから、「違法」な行為でなくても、「行政」の自己反省・上位機関の監督により「不当」な行為の是正も求めることができる。現行法では、@の弱点を補強するため、不服申立ての裁決にさらに不服のある者はなんらかのかたちで裁判所に出訴できることとして(もちろん出訴期間を徒過したもの等は認められない)、裁判所による権利救済の道も確保している。
・行政不服申立て同様に、行政の活動について再考を求める制度(現代の制度とはいろんな面で違っているが)は、明治憲法下でも存在しており、「訴願法」という法律が明治23年に制定され、昭和37年まで施行されていた。現代の制度は、行政不服審査法(昭和37年制定)とその他の特別法から成っている。
⑵ 行政不服申立ての対象事項
・行政不服審査法によれば(2条@)、行政庁の「処分」と「不作為」ということになっている。
@ 処分・・・行政庁が法令に基づき優越的立場において、国民に対し権利を設定し義務を課し、その他具体的な法律上の効果を発生させる行為(事実行為で継続的性質を有するものも含む)・・・行政行為、即時強制で継続的性質を持つもの、権利義務を具体的に規定する行政準則その他が該当すると考えられる。
A 不作為・・・行政庁が私人の申請に対し応答しないでいある状態
・では、行政庁の処分又は不作為であれば、いかなる事項についても不服申立てができるのか。かつての訴願法は訴願の濫発による行政の停滞を招いたり、訴願の対象が不明瞭になることによる国民の側の不便を防止するという考えから、「列記主義」の立場をとっていた。現在の行政不服審査法は「概括主義」の立場をとり、行政の領域の拡大に応じて不服審査の対象を一々列記するかどうか検討していく方法ではなく、特に法律で除外された事項を除き、原則として不服申立てができることとしている。
→特に法律で除外されている事項(4条@、行政手続法27条など)
⑶ 不服申立ての種類
・行政不服申立てには、次の3種類がある。
@ 審査請求・・・行政庁の処分(又は不作為。以下同じ)に対して、処分庁(又は不作為庁。以下同じ)以外の行政庁に対し不服を申し立てる。申立て先は直近上級行政庁が原則であるが、法律によって第三者機関が指定されている場合がある。(国税不服審判庁など)
A 異議申立て・・・行政庁の処分に対して、処分庁に対し不服を申し立てる。
B 再審査請求・・・審査請求の裁決に不服がある場合に、さらに不服を申し立てる。
・このうち、@の審査請求が原則(審査請求中心主義)であり、Aは処分庁に上級行政庁が無い場合、法律により異議申立てによるべきものとされている場合(国税など)などに限定されており、この場合は異議申立て手続きを経た後でなければ審査請求することができない(20条。異議申立前置主義)。
・また、Bの再審査請求は、法律・条例が認めている場合にしか許されない(列記主義の考え方)。これは審査請求の裁決については、行政部内でさらに審査するより、原則として裁判所に持ち込んで権利救済をさせる方が適切であろうという立法政策である。
⑷ 不服申立ての要件
@ 処分・不作為の存在・・・「断られることがわかっているから」と言って、申請中に上級行政庁に審査請求をすることはできない。
A 正当な当事者が申し立てること
@)当事者能力があること・・・自然人、法人、法人でない社団・財団の一部(10条)が訴えることができる。「森を壊さないで」といって森の精霊やドウブツが(それらの名で)訴えることはできない。
A)当事者適格を備えていること・・・不服申立ての「利益」を有する者であること。第三者や国民一般の利益の保護をはかるために不服申立てをすることができない。(一般消費者が不当表示防止のための活動を是正するために不服申立てができるか。この場合の消費者の利益は国民一般が共通して受ける一般的利益・反射的利益といわれるものであって、不服申立てのできる利益とは認められない。(最高裁昭和53.3.14判決)
B)不作為に対する不服申立ては申請をした者だけが行うことができる。
B 権限を有する行政庁に申し立てること・・・地方自治体の「法定受託事務」については、都道府県知事等の処分については国の主務大臣に、市町村長等の処分については都道府県知事に、審査請求を行うものとしている。(地方自治法255条の2)
・ 不服申立期間内に申し立てること・・・処分のあったことを知った日の翌日から起算して60日内に申し立てる必要がある。なお、処分のあった日から一年を経過すると不服申立てができなくなる。(不可争力)
⑸ 不服申立ての方法
@教示制度・・・書面による処分の場合、あるいは請求のあった場合には、不服申し立てができる旨、その申立先・申立て期間を教示する必要がある。
A審理手続(審査請求の場合)
・審査庁による書面の受理・・・不備の場合は却下
・ 処分庁の弁明書・請求人の反論書提出
・ 書面審理の原則(申立により口頭で意見を述べる機会を付与)
・ 証拠書類の提出・閲覧権
・ 鑑定、審尋、調査など職権審理主義に基づいて審査。争点外事項も対象となる(職権探知主義。最高裁昭和29年判決)。
⑹ 裁決(審査請求)または決定(異議申立)
@次の三種類のいずれかの裁決・決定がなされる。
・却下
・棄却・・・不服申立て人の主張に理由がないとして、処分を維持するもの。
※特殊な場合として、申立て者の主張を認めるが、「処分を取り消し又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは」「当該処分が違法又は不当であることを宣言」した上で、申立てを棄却する事情裁決・事情決定という方法がある。(40条E)(損害賠償、損失補償の請求権を発生させる効果があるとされる)
・認容・・・不服申立て人の主張に理由があるとして、処分の全部・一部を取り消す、あるいは処分の一部を変更する。この場合、申立人の不利益になる変更は禁止されている(40条D・47条B)。なお、事実行為に対する不服申立てを認容するときは、事実行為の「撤廃」又は「変更」が宣言される。
A不作為についての不服申立てについて
・ 審査請求認容の場合→速やかになんらかの行為をすることを命じ、裁決で宣言する(51B)。処分をすみやかに決定すべきことのほか、特定の処分をなすべきことも命ずることができると解されている。
・ 異議申立があった場合(却下の場合を除く)→20日以内になんらかの行為をするか、書面で不作為の理由を説明する。
B裁決・決定は書面で行い、理由附記が必要とされる。(理由附記なければ取消し原因となる)
※審査の対象は、処分(不作為)の違法か適法かの問題にかぎられず、裁量の当不当(踰越が無くても)にも及ぶ。
⑺ 執行不停止の原則
処分に対し不服申立てがあった場合、執行停止を認める立法もありうるが、行政不服審査法は不服申立てにそのような効力は認めなかった(申立ての濫用による行政の麻痺を恐れたと考えられる)。したがって、処分について不服申立てが係争中であっても、行政庁は処分の執行を続行することができる(もちろん強制執行するには法律の規定が必要である)。ただし、審査庁は、審査請求人の申立てがあった場合などに、執行を停止することができる。
⑻ 特別法による不服申立
@行政不服審査に特別の定めを置くもの
・ 国税不服審判(国税通則法)・・・異議申立の前置、国税不服審判所への審査請求など
・ 社会保険関係(健康保険法など)・・・社会保険審査官への審査請求、社会保険審査会への再審査請求
A行政不服審査とは別形式の不服申し立て
・工業所有権関係(特許法)・・・特許出願拒絶等への不服審判は複数の審判官により行う