行政法16(19.6.7)

行政作用法各論D

行政が自らの業務の執行についてのルールを定めることがあります。これをここでは「行政準則」と呼んでおきます。これには国民の権利義務と関連する場合もありますが、「行政行為」のように個別の権利義務関係を確定させる行為では、ありません。大きく分けて、行政立法(法規命令・行政規則)・行政計画があります。これらについては、立法・司法(国民との直接の関係)が話題になります。

行政立法

⑴ 定義

法規定立行為を行政が行うこと。

「法律による行政」の考え方に基づくと、(法律の留保の対象となる)行政の活動については法律が規定しておかねばならないこととなるが、法律自体では実施すべき行政施策の目的や要件・内容等につきおおまかに決めておき、細部や技術的な事項についてはそれぞれの担当部局がその専門的知見に基づいて定めるよう、行政権に「命令の定立」を委任すること。

※用語「命令」・・・行政の定める法規のこと  「法規」・・・一般的な権利義務規定

⑵ 行政立法の必要性

0)  専門技術的判断を要すべき事項

イ)      事情の変化に応じて頻繁に改廃しなければならない事項

ロ)      政治的な中立性を要する事項

ハ)      地域特殊性に応じた定めを要すべき事項

については、法律で一律に規定してしまうより、それぞれ適切な行政庁に随時定めさせる方が適当である。

・大気汚染防止法上の公害規制(ばい煙の排出基準、有害物質の種類、規制対象施設)

     都市計画上の用途地域指定

     建築基準法の容積率

     自然公園法の開発規制区域指定

     健康保険法の保険単価

     生活保護基準

     公務員の政治的行為として禁止される事項の内容

・・・⇒専門技術的判断、地域の特殊性、事情の変化、政治的中立性などが求められる。

 

    行政立法の形式的分類

(行政法学の観点からは、通達問題を除きあまり大きな問題とされることはないが、行政実務的には、大きな区分である(形式的ではない)。)

@政令

A府省令

B外局規則

C独立機関の規則

☆勅令

D告示・訓令・通達

ア)告示・・・本来は行政規則であって外部に示すもの。しかし、法規的性格を持つものもある。

イ)訓令・通達・・・上級行政機関が下級行政機関の職務遂行に関して指揮するために発する「命令」。特別の関係にある私人に対する場合もある(行政指導と区分できない場合もある)。

☆訓令・通達の区分・・・上級官庁の下部機関への命令を一般に通達、文書になっているものを訓令と呼んだり、拘束力ある命令を訓令、基準・方針を示したものを通達と呼ぶ、という説などがある(が、いずれも行政内部に限られるものであることから分類の実益はあまりないとされる)。(とりあえず以下は「通達」とのみいう)

E自治立法(条例・規則)・・・条例は「行政立法」の一種とは言い切れませんが、ここで整理しておきます。

⑴ 条例制定権の限界

    当該地方公共団体が処理すべき地方的利害に関わる事務を対象とし、

    法令の規定に抵触しない内容を定めるもの

⑵ 条例の対象となる事務(地方自治法2条)

    地方公共団体が処理すべき地域における事務

    法律又は政令で処理すべきこととされている事務(機関委任事務×、法定受託事務○)

 ⑶ 法律の専権事項

    刑事犯の創設(憲法31条・罪刑法定主義)、物件の設定・経済統制など財産権の基礎事項(憲法29条)

     財産権の行使への規制は可能か→最高裁昭和38年ため池条例事件判決

⑷ 住民に義務を課し、その権利を制限するには条例による必要(地方自治法14条A)(侵害留保説)

⑸ 「法令の規定に抵触しない内容」(先占関係)

    国の法令が未規制の領域・・・条例での規定が可能(先占)

    国の法令で定めていることを邪魔するような規定・・・条例での規定は×。(積極的抵触)

    国の法令の規制と別目的での規制・・・条例での規制が可能(近隣迷惑条例での飼い犬規制)

    単純な先占理論では対応できない事項

@スソ切り規制・・・法令で規制している対象よりも小規模であるため規制対象とならない施設等への規制(△)

A上乗せ規制・・・法律の規制を上回る厳しい規制をかける

B横出し規制・・・法律が規制していない対象にも規制をかける(スソ切規制はこの一種)

    最大限規制立法か最小限規制立法か

(最高裁昭和50年判決⇒法律の規制の趣旨が全国一律の均一的規制を目指している場合には条例で上乗せ・横出し規制を定めることは許されないが、法律が最小限の規制を定めるに過ぎないとみられるときは地方公共団体が地域特性を配慮して条例で規制の強化を図ることも許される) 

 

    行政立法の内容的分類

 A 法規命令

(ア)   執行命令・・・憲法73条6号、法的根拠は要しないとされる。

(イ)   委任命令・・・憲法73条6号ただし書き。委任の範囲が明確であることが必要。

 

@)委任の範囲の明確ではない白紙委任のようなものは妥当ではない。ただし、法律全体の構造から授権範囲が読み取れればよい。

☆委任の範囲内であるとされた事例

・銃刀法施行令事件(平成2年2月1日最高裁判決)

・国公法102条・・・人事院規則への委任(昭和33年3月12日最高裁判決)

 

☆委任の範囲外であるとされた事例

・農地法施行令事件(昭和46年1月20日最高裁判決)

 農地法80条「農林大臣は・・・政令で定めるところにより、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認める(買収農地について)は、これを(元の地主に)売払うことができる。」

  →施行令では、買収農地につき公共使用にあてるために売り払い対象から除外できる旨を定めており、これに沿って売払い対象から除外され別の者に売り渡された土地について、元の所有者から売渡し義務の確認を求めて出訴したもの。

最高裁は、委任の範囲にはおのずから限度があり、明らかに法が売払いの対象として予定している農地を政令で売払いの対象から除外することは、法の趣旨に反して許されない、として、既に農地ではなくなっている政令の規定を無効であると判示した。

・監獄法施行規則事件(平成3年7月9日最高裁判決)

 

A)再委任・・・認められる。(昭和33年7月9日最高裁判決:酒税法(当時)の「酒類・・・の製造業者」は命令の定めるところにより帳簿を作成するとされ、この命令(施行規則)によれば「前各号のほか、税務署長の指定した事項」も帳簿に書かないといけない、とされたいた。ここでAは、税務署長の指定した事項を書いていなかったとして酒税法違反で訴えられた。)

 

☆「独立命令」・・・明治憲法

☆パブリックコメント(→行政手続法)

 

B 行政規則・・・国民の権利義務と直接関係ない、行政内部の定め

(行政規則の性質を持つが法律で定められるものもある。)

 

⑸ 行政立法の司法審査

  行政立法は裁判所の司法審理に服するが、行政立法に違法なところがあっても、関係人がただちに行政立法を取消すように訴えでることはできない。行政立法によって執行された行政行為について、これによって権利を侵害あるいは侵害されるおそれが強まったところではじめて訴訟が可能となる。(しかし、これではいろんな事実が進んでからはじめて裁判ができることになり、国民の権利を守るという観点からの問題も指摘されている。地裁段階では、都市計画区域の指定や医療費の値上げ告示につき訴えを認めた例もある。)

 

    通達の内部行為性と外部化現象

通達は行政の内部での命令、基準であることから、法律による行政の原理から見て、行政内部で通達を作成し、これに拠って行政が活動する「通達による行政」を問題視する見方もある。しかし、行政の効率性や平等原則の維持のためにはどうしても必要な手段であるという考え方が支配的。

 

ア)内部行為性・・・通達は行政内部のものであって、国民(及び裁判所)を拘束しない(法規命令とはならない)。つまり、裁判所が行政行為の違法適法を判断する場合、通達に従っているから、といって適法ということにはならないし、一方、国民の方は、通達そのものを行政訴訟の対象とはできない。(異教徒埋葬事件(昭和43年12月24日最高裁判決))

イ)外部化現象・・・通達によって法律解釈がなされている場合、通達により法律解釈が変更されることがあり、このことは法的安定性と国民の行政への信頼を害することになって、法律による行政の観点から問題ではないか。(→パチンコ球遊器事件(昭和33年3月28日最高裁判決))
逆に、通達によってある種の行政処分が大量に反覆して実施されているのに、ひとつの処分だけが通達に違反し(ただし法律には適合している)て行われれば平等原則に反するのではないか。通達は平等原則の基準として、法規に近い機能を持ち、近年では行政裁量過程の重要なファクターとして司法審査の対象となるようになっている。

ウ)通達には司法判断は求め得ないのが原則だが、後に続く行政行為がない場合に、通達を争うことを認めた例もある。(尺貫法事件(46年11月8日東京地裁判決))

 

 

は行政契約)