行政法2219.6.28

行政作用法補論A

2 特別権力関係論(続き)

⑵ 特別権力関係の内部での法的関係

@命令権・・・国または公共団体は、特別権力関係にある相手方に対して包括的な命令支配権を有し、行政目的の達成に必要な限り適宜命令を発して義務を課したり人権を制限したりすることができる。(法律の留保の対象外にあり、法律の授権は必要ない)

A懲戒権・・・特別権力関係内の秩序は管理者の権限であり、相手が命令に従わないときは、管理者たる行政庁は違反者を懲戒するなどの強制措置を講じることができる。

B司法審査との関係・・・Aと同様に、秩序維持は管理者の権限だから、特別権力関係内部での措置に不服があっても、一般国民としての地位を侵害するものでないかぎり、相手方は裁判所に訴えることはできない(とされてきた)。

⑶ 特別権力関係と司法審査について

@特別権力関係から排除する行為ないしは一般法秩序における市民としての法律上の地位に関するもの、については、司法審査の対象となる。(最高裁昭和35年10月19日判決)

※⇒地方議員の議員に対する懲罰について、出席停止や戒告は裁判所での審査の対象とはならないが、除名については特別権力関係から排除する行為であり、裁判所の審査対象となるとされた。

Aしかしながら、国会を唯一の立法機関とし、基本的人権の尊重を基本原理とする日本国憲法の下で、国民と国・公共団体との関係につき、「法律による行政」の対象から除外される「特別権力関係」という分野をみとめる必要性はあるのかどうかについて、議論がある。

@)一般否定説・・・「法律による行政」の原理を考えれば、特別権力関係が成立する余地はないとする。

A)個別否定説・・・特別権力関係という概念で一括されてきたいろいろな法律関係をみると、それぞれ違った法的規制の下にあるべき事項であると考えられる。さらに、これらの分野を個別に見ていくと、実は公務員法の制定などにより議会が定立した「法律」による規制が行われているのが現状であり、現代では「法律による行政」は貫徹されていると考えられる。(個別の各分野の法的規制がそれで適当かどうかについて検討すべきである。)

  例:公務員の勤務関係・・・国家公務員法等により規制され、争議権の制限、政治行為の禁止などの制約があるが、基本的には私企業の労働関係と相異はない。

Bまた、裁判所の司法審査の対象外とされることがある(昭和52年3月15日最高裁判決:国立大学の単位認定問題)が、これについても「特別権力関係」という用語は使われておらず、実定法上ある範囲で自律権を保障された集団の内部規律について、当該社会の自主性に委ねられているもの、と考えられている(「部分社会論」)。そういう団体であれば、民間においても同様の自主的規律が認められている。(大学・病院については私立大学・私立病院にも利用者との間で同様の関係がある。)

 

3 行政手続法

⑴ 総論

 行政手続・・・行政作用を行うための事前手続をいうのが普通。(広義では行政過程で行われる事後手続:例えば行政事件訴訟:を含むこともある)

 

(事前手続)・・ 行政作用 (公定力)・・事後手続(異議申立、審査請求、取消訴訟)

 

わが国では、従来、明治憲法下の訴願法、行政裁判法以来、行政行為の事後救済には目が向けられてきたが、事前手続については土地収用の規定などを除けば、法的統制の外にあった。加えて、行政行為の効果は、原則、処分の内容が「相手方に到達したときに効力が生ずる」とされ(行政処分即時発効原則)、行政作用が行われた後、事後手続でその効力を争うときには、すでにその効果が発生していることになる。このことから、日本国憲法制定後、事前手続を規定しようという試みが何度かなされてきた。

・国家行政運営法案(昭和27年・・・廃案)、第一次臨調行政手続法草案(昭和39年)、執行命令の形(政省令)での申請書式、手続規定の公表、いくつかの個別法での聴聞・弁明手続きの法定など

     第三次行政改革推進審議会行政手続法要綱案(平成2年)

     非関税障壁として諸外国からも批判

     平成5年、行政手続法制定

 

○明治以来の「事後的チェック行政」を変更するもの。「漢方薬」

○基本的には、行政庁の処分について、処分の内容の相手方への告知相手方の自己主張の機会の付与、を行うもの。

 

⑵ 行政手続法の内容

@目的(1条)・・・・行政運営における公正の確保と透明性の向上を図る

         ・国民の権利利益の保護

   ・処分の相手方が地方公共団体やその他の公共団体である場合、適用されない。

             →国と地方の関係(地方自治法)

A申請に対する処分の手続

     審査基準の作成と公開義務(5条)

※審査基準の不利益変更・・・原則、処分時の審査基準に従う(名古屋高裁金沢支部昭和57年)。経過規定や周知期間をきちんと定める必要があると考えられる。

     標準処理期間の設定と公開義務(6条)

     到達後遅滞ない審査の開始(7条)・・・「受理」概念の否定。申請が到達後、「受理」されていないとして審査を行わないことは許されない。

     拒否処分の理由提示(8条)

     申請者にとっては利益となる行政行為(認容処分)において、第三者が不利益を受ける場合、第三者に対する理由の提示は必要か。⇒行政手続法上は不要。個別法で理由提示義務のある例:土地収用法26条・・事業認定の際、理由を告示することとなっている)

     申請者への情報提供(9条)

   申請者の求めに応じ、審査の進行状況や申請に必要な情報の提供に努める。

     意見聴取の努力義務(10条)

     複数行政庁が関係する場合、相互連絡等による審査促進(11条)

     申請と届出

「申請」・・・私人が行政庁に許認可等を求める行為であって、行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの

「届出」・・・私人が行政庁に一定の事項を通知する行為。

     法令上「申請」と書かれている届出:外国人の登録申請(外国人登録法3条1項)・・・諾否の応答は予定されない。

     法令上「届出」と書かれている申請:婚姻の届出(民法739条)・・・受理の応答義務あり。(ただし戸籍法案件は行政手続法の適用除外とされているので直接には問題はない)

     「自己の期待する法律上の効果を発生させるためには、当該通知をすべきこととされているもの」とはどのようなものか・・・航空機から物件を投下する行為は禁止されている(航空法89条)。空葬を行う場合など、地上の物件に危害・損傷を与えるおそれがない行為で「国土交通大臣に届け出たときは、この限りではない」とされている。

 

B不利益処分の手続

     義務を課し、権利を制限する処分。(申請に対する許認可等の拒否処分などが除外される。2条4号)

     判断基準の作成・公開の努力(発動件数が稀である場合があること、公にすることで「ではここまではいいんだ」と知らしめることになり、違反を助長することになる可能性があるため)(12条)

・以下、英米法の法理とされてきた「不利益処分の通知と意見陳述機会の保障」を法定化

     不利益処分をしようとする場合、不利益処分の予定を通知し、聴聞手続又は弁明の機会を与える。(13条)

C聴聞手続き

     聴聞の通知(15条)

     不利益処分の内容・根拠条項、原因事実、聴聞の期日・場所、聴聞に関する事務を行う組織

・参加人の参加(17条)

     資料閲覧権(18条)

     審理方式・・・対質、非公開(20条)

     聴聞調書・報告書の作成(24条)

     行政庁は、この調書・報告書を十分に斟酌して処分を行う。

・異議申し立ての制限(27条)

D弁明の機会の付与

・書面方式

E不利益処分の理由の提示(14条)

F行政指導に関する定め・・・「世界ではじめての規定」

     所掌事務の範囲、任意性、不利益取り扱いの禁止(32条)

     申請者が不服従の意思を表明した場合には指導は続行しない。(33条。昭和60年最高裁判決)

     許認可権限を背景として、許認可を行使する意思がない場合に、許認可を行使しうる旨をことさらに示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。(34条)

     責任の明確化、書面交付、共通指針の公表(35条・36条)

G届出

     到達主義の採用(受理せずに指導することを防ぐ)(37条)

H意見公募手続(パブリックコメント規定)

     行政立法の事前手続

平成11年4月、規制に係る意見提出手続きを設定(閣議決定)

平成17年法制化

・「命令等」を定める場合の原則・・・法令適合、適正確保

※命令等・・・法律に基づく「命令」(行政庁が策定する一般法規)又は規則、審査基準、処分基準、行政指導指針(2条8号)

・命令等について、「命令制定機関」は30日以上の意見提出期間を定めて一般の意見を求める。

     意見考慮、結果の公示(42条、43条)

I地方公共団体の責務

 行政手続法の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るための必要な措置を講ずる努力規定(38条)

 

⑶ 環境影響評価手続(環境アセスメント)・・・環境影響評価法(平成9年制定)

     アセスメント事業のスクリーニング

     評価方法書の縦覧、項目・調査評価手法の選択

     評価書の広告縦覧 (実物)

     国民・環境大臣の意見書提出権