行政法21(19.6.26)
行政作用法補論@
1 公法関係論
ここでは、法律を「公法」と「私法」に分けて分析していく「公法・私法二元論」という考え方について説明します。
⑴ 公法・私法二元論
・行政法という分野は、「公法」として成立した。
・絶対君主(行政)の活動を立法権(議会)の制定した法律によって制約する。→「法律による行政」
・絶対君主(行政)の活動を規制する法律は、私人間の契約関係を規制する私法とは別の法的原理に服する(のではないか?)。このような私法と異なる法の分野を「公法」と称した。
・フランスやドイツ(大陸法系)の諸国では、司法権(通常裁判所)は、私法原理の働く分野についてはもちろん裁判権を有するが、公法原理の働く分野については「行政裁判所」が管轄するという制度をとった。(私法原理の働く事項については、行政権の行った行為でも通常裁判所が裁判権を保有)
・明治憲法下におけるわが国の制度も、大陸法系の国々と同様だった。
⑵ 公法と私法の区分
以下のような説がある。(逆にいえばひとつにまとまっていない)・・・Dを覚えてください。
@ 主体説・・・法律関係の双方または一方が「行政主体」であるときに適用される法を公法という。
A 生活関係説・・・法の関与する生活を経済生活と政治生活に分け、政治生活に関する法を公法という。
B 利益説・・・私益に関する法と公益に関する法を区別し、後者を公法という。
C 権力説・・・法律関係の当事者間に、双務契約関係ではなく命令と服従の関係がある法を公法という。
D 折衷説・・・次項
⑶ 「行政上の法律関係」
⑵Dの折衷説では、「行政上の法律関係」を以下のように(三つに)分類し、行政の作用を公法関係と私法関係に区別する。
@ 国や公共団体が優越的な立場に立って公権力を行使し、国民に命令強制する作用・・・租税の賦課、違反車両の撤去、営業免許(禁止の解除)など
国家の統治権の発動として行われる行政分野であり、「本来的公法関係」と呼ばれる。このような行政の作用に関わる法は、国や公共団体と国民の間の「権力関係」を規律するものであり、対等者間の利害の調整を目的とする私法とは異質な、行政固有の原理に立脚した法となる。
A 国民と対等な立場に立って実施する非権力的作用・・・給付行政にかかわるような経営的な活動(水道・バス)や財産管理(公園の管理)などの作用。
行政主体と国民は支配服従ではなく基本的に対等な関係に立ち、私法関係と本質に違いはない。
ア)ただし、すべてを私法原理に任せてしまうと公益の実現・行政目的の達成に支障が生じる。中でも公物の管理に関する法律や医療・福祉に関わる分野では、公平性や採算の度外視など、私法原理とは異なった特別な法的扱いがなされる。このような分野は「伝来的公法関係」(「管理関係」)と呼ばれる。
イ)これに対し、行政が営利・独立採算を旨として行う経済的経営活動の分野(公営住宅など)は、行政の作用に関わるとはいえ、私法と共通の原理に立つとみられ、これらは「私経済関係」として通常の民事法と同質のものと考えられる。
行政上の法律関係・・・権力関係 ・・・本来的公法関係
・・・非権力関係・・・管理関係 ・・・伝来的公法関係
・・・私経済関係 ・・・私法関係
⑷ 公法関係への私法の適用
公法関係の分野については、私法が適用されるかどうかについて、以下のように説かれてきた。
@「権力関係」にある場合には、公権力によって国民に命令・強制をする関係であることから、私人相互間の利害調整のために作られている私法(民法や商法)が適用される余地はほぼ無い
A「管理関係」にある場合には、逆に明文で排除されない限り私法の規定が原則適用される。
Bなお、公法には総則的な法律がないので、「権力関係」についても、私法の世界で認められてきた「法の一般原理」や「法技術上の約束」が適用される場合がある。
・信義誠実の原則、権利の濫用の禁止(民法1条)
・ 期間の計算(民法138条等)
⑸ 公権と私権
法律上の権利についても、公権と私権に区別される。
@ 公権・・・公的な権利を主張する法律上の権利
A 私権・・・自己の個人(自然人・法人)的な権利・利益を主張する法律上の権利
このうち、公権については、国家(行政)の側と個人の側のそれぞれの権利が考えられ、次の二つに分類される。
ア)国家的公権・・・国または公共団体が国民に対して有する公権。公権力による支配権をいい、一方的な命令や強制を含み、法律に従って行使することが求められる。(例:許認可権、課税権)
イ)個人的公権・・・国民(住民)が国又は公共団体に対して有する公権。公的立場からする権利の主張だと考えればよい。参政権や自由権(職業選択の自由、営業の自由等)、受益権(生活保護請求権等)がこれに当たる。
☆ 個人的公権の特性
私権と違って、次のような特徴があると考えられている。
・一身専属性・・・個人的利益のために与えられるものではなく、あくまでも一定の権利者に行使させることが国家や公共の利益のためになると考えて与えられたものである。このため一身専属性を持ち、権利者個人の意思で勝手に放棄・譲渡・移転等をすることが制限される。(例えば、選挙権は売れない)
・ 相対性・・・絶対不可侵ではなく、公益の見地から制約を受けることがあり得る。(予算が無ければ生活補助はできない)
・ 権利行使の任意性(選挙権を行使しなくても処罰はされない)
・ 訴訟手続の特殊性(行政事件訴訟法)
・ 金銭債権の消滅時効(民法上の債権は消滅時効10年であるが、公法上の金銭債権は5年時効(会計法30条等))
☆ 私人の側から行政に対して行う行為(単なる私法上の契約行為などを除く)を「私人の公法行為」として捉える考え方もある。
・私人の行為は行政の活動に大きな意味を持つことが多い(申請が無ければ許認可はありえない)が、禁止された行為の解除請求や整序行政の発動請求など、公権の議論だけでは捉えきれない行為も多い。
・私人の公法行為には民法の類推される部分も多く、例えば、私人の意思の欠缼・瑕疵がある場合は、民法が類推適用される。(行政側の意思の欠缺や瑕疵については、外形主義がとられる)
・撤回の自由(退職願いなど)が認められるほか、私人の行為が必要な行政行為については、私人の行為が無効になれば、行政行為も無効となるとされる。
⑹ 公法・私法二元論の意義
日本国憲法には行政裁判所制度は存在しない。また、近年、公法・私法の区分を持たない(「行政に関する法」が無い、という意味ではない)英米法の影響が強まっている中で、公法・私法を区分する制度的基盤は弱まっているといわれる。現在においては、区分の意義は次のような点にあるとされる。
@ 訴訟システムの違い
裁判所は一元化されたが、「公権力の行使」に関する不服、その他の「公法上の法律関係」に関する訴訟は、「行政事件訴訟法」によって進められるものとされており、一般の訴訟が民事訴訟法によるのとは違っている。
A 金銭債権の消滅時効
「公法上の金銭債権」は消滅時効が5年になる。
★一方で、行政権は法律により個別的・具体的に授権された限度で国民に対し優位した地位をもつに過ぎず、公法関係という分野を想定して、民事法とは別の公法原理が支配する、ということを想定しなくても、行政法規を分析していけば行政法の働きは考察しうるとする、公法私法二元論への批判が有力となっている。
2 特別の公法関係(特別権力関係論)
公法関係の中でも特に議論があり、現在では「克服された」ともいわれる「特別権力関係」について説明する。
⑴ 特別権力関係
行政法の伝統的学説では、
○「法律による行政」の原理は、一般の市民と国家権力の関係(一般権力関係という)に適用されるものであり、
○これに対し、個人が、特定の法律原因により、行政と特別な社会的接触の関係に入る(公務員など一般市民と異なる行政上の特殊な身分を取得し、行政と密接な依存関係に立って行政目的の実現に協力する地位についた場合など)と、「法律による行政」の要請が緩和され、このような個人は、行政との間で特別な義務(他方、特別な権利もあるわけだが)を負うことになる(特別権力関係という)と考えられてきた。
→(つまり、このような個人との関係では「法律の留保」の原則が適用されない。)
★ 次のようなものが、「特別権力関係」である、とされてきている。
・公務員の勤務関係(議会と議員の関係を含む)
・公法上の営造物の利用関係(大学・病院・刑務所等)
・公法上の特別監督関係(特許企業者に対する監督(電気・水道・鉄道))
・公共組合における組合員との関係
(次回では特別権力関係への批判と、行政手続法を勉強します。)