行政法G(19.5.10)

行政組織法補論

行政遂行のための手段に関する法@

「行政組織法」とは、行政を行う主体に関する決まりを学ぶ分野です。この後、「行政作用法」の分野に移る前に、行政を行う主体は、その活動のための資源をどうやって入手し、管理し、使用しているのか、について、法的な決まりを一瞥しておきたいと思います。これらについて詳しいことを知りたいひとはさらに行政学や財政学などの分野の勉強に進んでください。

 活動の資源というものを普通の産業で考えてみましょう。農業を営もうと思えば、ヒトと土地と、それから種苗やトラクターなどの機材が要ります。あと、この産物が何であるか、どこへ持っていけば売れるのか、などの情報が必要です。製造業でも、ヒト(労働力)と施設(工場)と原材料、あるいはそれらを買うお金、そして、情報が必要になります。行政が働くためにも、ヒト・モノ・カネ・情報の四つの資源が必要です(行政には、これに加えて「権限」が必要です。)。

 行政におけるヒト・モノ・カネ・情報の動きに関する法制を見て行きます。

 

1 ヒトについて・・・公務員法

行政主体のために働く労働力の主たるものは、公務員です。公務員とは、一般に、行政機関(行政庁、補助機関など)の地位にある自然人のことをいいます。(実定法上はそれぞれの法律での扱いに従うことになります。例えば、行政主体となる法人の職員であっても、国家公務員法や地方公務員法上の公務員では無いことがあります。)

⑴ 公務員制度について

 公務員制度については、歴史的に見て、二つのスタイルがある、と言われます。

@メリットシステム(merit system)=資格任用制(・・・19世紀英国)

 A情実任用(patronageパトロネイジ)、猟官制(spoils systemu)(・・・明治の藩閥政府、20世紀初のアメリカ)

専門的能力、政治的中立性の確保という点から見ると、@の方が優れた制度と考えられます。一方で国民の政治的判断を行政に浸透させるためには、一定の範囲の公務員については政治的任用の対象とする必要があります。

⑵ わが国の公務員制度

M20(1887) 官吏服務規律 M26 文官任用令 

官(勅任官、奏任官、判任官)、雇、傭人

S22 憲法15条・民主的公務員法制の原則、全体の奉仕者

国家公務員法(昭22法120)等・・・特別職以外の公務員を一本化(一般職公務員)(国公2)

S23 国家公務員法改正・・・人事院設置、労働基本権の制限

 これ以降、公務員制度には大幅な変更はありません。

⑶ 公務員の分類

・国家公務員(行政、立法、司法)と地方公務員

・特別職と一般職

・常勤と非常勤

・執政と行政、企画と実施

⑷ 一般職公務員について

 ・いわゆる「身分保障」があります。身分保障とは何でしょうか。国家公務員法75条によれば、「法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、」降任・休職・免職されないこと、だとされています。では、「法律又は人事院規則に定める事由」とはどのような場合でしょうか。→分限処分(国公法78等)、懲戒処分(国公法82)。また、公務員には、給与請求権、措置要求権(86条)、審査請求権(90条)が認められている。(なお、地方公務員については地方公務員法(昭和25法261)上に同様の規定があります)

 ・一方で、職務専念義務(101)、法令・職務命令従事義務(98)、信用失墜行為の禁止(99)、守秘義務(100)、政治的行為の制限(102)、労働基本権の制限(98)などの義務があります。

 ・国公法により、人事院(人事官3人)が設置されている。人事院は「人事院規則」を制定する権限を持ち、給与勧告、試験、研修、兼業承認、職員の不服申立の審査機能を有している。なお、国公法には「中央人事行政機関」という概念があり、これは人事院と内閣総理大臣のことをいう。(ちなみに、内閣総理大臣がすべての国家公務員を任命しているわけではない点、注意してください。)

・公務員としての職務を適切に行わない場合、懲戒・分限処分のほか、刑罰の対象となったり(収賄など)、弁償責任が生じたりします。

  「刑法上の公務員」・・・普通の公務員のほか独立行政法人の職員などで、刑法の適用について公務員とみなす、とされているひと。

 ・なお、国公法はアメリカ型の公務員制度である「職階制」の導入を前提としています(29条)が、これは実施されていません。

 ・国家公務員倫理法(平11法129)・・・接待、金品受領の制限など

 ・一般職職員給与法(昭25法95)、国家公務員災害補償法(昭26法191)、国家公務員退職手当法(昭和28法182)等

⑸ 公務員の数について

 国家公務員と地方公務員を合わせて400万人弱と言われています。詳しくは別紙資料を見てください。

 ・総定員法・定員削減計画(昭和42〜)

⑹ その他公務員をめぐるトピックス

  ○外国人の公務就任問題(「公権力の行使、国家意思の形成への参画に携わる」公務員への就任)

  ○公務員制度改革・・・一般的な勤務関係への解消?(職階制、勤務条件法定主義、労働基本権の制限、身分保障などをどうするか)

  ○特別権力関係説・労働契約説・公法上の勤務関係説

 

2 モノについて・・・公物法

行政活動に利用されるモノについては、「公物法」といわれる一領域が形成されています。(そういう名前の法令があるわけではありませんが)

まずはこの領域で使われる特有の用語を知ってください。

⑴ 公物・公共用物等

 ○公物・・・国家または公共団体が直接に公の目的の為に供用する有体物。(学説上の概念)

   ・公共用物・・・公衆の要に供されるもの。・・・道路、河川、公園など

   ・公用物・・・官公署の要に供されるもの。・・・庁舎、学校の建物など

  ○自然公物・人工公物、自有公物・他有公物

○公共用物については、「公用(供用)開始」、「公用廃止」が行われる。

○公共用物の使用

・一般使用(自由使用)・・・本来の用法に即した利用(公園で散歩する)

・許可使用・・・本来の用法に合致した利用であるが、競合する利用の調整、管理上の支障の未然防止等を理由として許可制がとられている利用形態(公園で集会をする)

・特許使用(特別使用)・・・目的外使用又は通常の使用の範囲を超えた継続的利用(公園に広告塔を建てる)

 ○「公共施設」・・・公共の福祉を増進する目的で、国や公共団体によって設置・管理されている、国民・住民が利用する施設、及びその施設によるサービス。(水道、道路、バス、体育館、学校・・・)

○「営造物」・・・行政主体により特定の行政目的に供される人的手段・物的施設の総合体。学説上は「公共施設」と同じような意味で使われる。

⑵ これらのほか、実定法上では次のような言葉があります。 

※国有財産法(昭23法73)(3条)・・・行政財産(公共用財産・公用財産)・普通財産

※地方自治法(244条)・・・「公の施設」の概念。設置の条例主義、住民の利用権

※国家賠償法(1条)・・・「公の営造物」の設置管理・・・瑕疵を問われる。⇒(人的手段は除外)

⑶ 公物をめぐるトピックス

○一般的な民事取引への解消(例えば、公設体育館の供与は?)⇒供与義務、許可制による行政不服審査の活用などをどう考えるのか。

PFI事業

○国有財産の利活用・・・宿舎用地等の売却など

 

5月10日はここまでしかいけませんデスタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

3 おカネについて・・・財政法

 国の予算その他財政の基本に関しては、財政法(昭和22法34)が定めています。このほか、政府のお金の入手(歳入)に関しては国税通則法等の各種税法、お金の使い方(歳出)に関しては、会計法(昭22法35)、補助金適化法(昭30法179)などにも規定されています。なお、近年においては、談合防止のために公共工事入札契約適正化促進法(平12法127)や談合防止法(平14法101)が制定されていますが、詳しくは「行政契約」の章に譲ります。

⑴ 予算・決算

 内閣は、毎年4月1日から翌年3月31日までの会計年度について、歳入歳出を編入した予算を国会に提出します(補正予算や暫定予算という概念があり、予算の提出は一会計年度について国会に提出されるのは一回だけではありません)。

 予算は一般会計と特別会計から構成されます。

 国会で成立した予算は、「各省各庁の長」に配腑され、会計法などの規定に従って執行されます。

会計年度終了後、歳入・歳出の決算は会計検査院に送付され、その検査を経たものを内閣が国会に提出します。

○財政法にはこのほか、次のような重要な規定があります。

・財政収入の国会議決主義(3条)・・・租税のほか、課徴金・専売価格・事業料金については法律又は国会の議決に基づいて定める。

・公債発行の原則禁止(4条)

     19年度に特別会計の改革が行われています(特別会計に関する法律)。

⑵ 財政投融資

 財政融資資金法(昭和26法100(資金運用部資金法:平成12に改題))に従い、政府の特別会計の積立金その他の資金をもつて国、地方公共団体又は特別の法律により設立された法人に対して確実かつ有利な運用となる融資を行うシステムです。かつて不透明性や巨大性が指摘され、平成13年に大改革が行われています。 

⑶ 社会保険

 健康保険、国民年金などの社会保険も、行政の活動のために使われているお金です。予算の特別会計の一部を構成しています。これらの社会保険のお金の徴収、支出については、国民年金法や健康保険法などの社会保障法に規定があります。