福井:行政法D(19.4.24)
行政組織法A
T 行政機関理論
⑴ 行政という活動の主体は誰か。(行政主体論)
⑵ 行政主体の中はどのような構造になっているのか。(行政機関論)
⑶ 行政機関相互の関係はどのようになっているのか。(権限の分配・調整)
1 行政主体
「行政という活動の主体は、県庁とか交番とかの「役場」ではないですか」
というひとがいるかも知れません。場所としての「役場」のことを「官公署」といいますが、そこは「行政の活動が行われる場所(のひとつ)」というだけで、行政を行う権利・義務の主体そのものではありません。また、「公務員」という概念もありますが、これは(別途説明しますが)行政を行う権利・義務の主体と雇用関係を結んだ自然人のことで、もちろん「公務員」が働かないと行政は活動できないのですが、権利・義務の主体になるわけではありません。では、「官公署」に存在し、「公務員」を雇って働かせているのは「ナニモノ」でしょうか。
民法の世界では、経済活動の主体は、権利義務の主体である「人」です。人には、われわれ「自然人」と「法人」がありました。「行政という活動の主体」も、行政に関する権利義務(以下「行政権」と言い換えます)の帰属する主体を指し、その主体のことを行政主体といいます。このような行政主体になりうるのは、以下のようなもので、すべて「法人」であると観念されます。Aの行政主体の行政権は、@から分与されているものと考えられます(現代では@が作った法律によって行政権を持つことになっている、ということです)。
以下のうち、@だけが法令上「法人」とは明定されていませんが、権利義務の帰属について法人として扱われているので、法人であることに間違いはありません。
なお、自然人は行政主体になりえるでしょうか。近代憲法下では、「君主」自身は財産権の主体となりえますが、それは「王室財産」の主体(つまり、一般の私人の財産権と同じ)であって「行政主体」ではありません。
@ 国
A 公共団体
・地方公共団体
・公共組合
土地区画整理組合・土地改良区
健康保険組合・農業共済
・ 独立行政法人、特殊法人、認可法人、第三セクター、その他
国と地方公共団体については問題無いと思いますが、それ以外の法人が行政権を分与されていることに少し違和感があるかも知れません。それぞれの行政主体については、別途説明します。
2 行政機関(権限による分類)
行政主体は「法人」でした。民法法人でもそうでしたが、「法人」には「機関」が必要です。法人のために意思決定その他の事務を行う自然人(またはその集合体)のことです。行政主体の中身はどうなっているのでしょうか。
行政主体と雇用関係を持ち、その業務を行っている自然人のことを「公務員」といいました。「公務員」は、法令に従って特定の権限(仕事)を持っています。公務員を権限の保有者としてみたとき、これを「行政機関」といいます。(逆向きにいえば、「行政機関が権限の範囲で行った活動の効果は、行政主体に帰属します。」という言い方もできます。さらに「行政機関は人格を有しない」という言い方もします。)
(注)「行政機関」には、「行政事務を分担する組織の単位」という意味もあり、国家行政組織法はそのような考えに立っています。「国」の説明参照のこと。
行政主体の中身を「行政機関」に分けて見てみましょう、というのが「行政機関理論」です。行政機関は「権限」に着目した概念ですから、その権限によって分類してみると、行政機関には次のようなものがあります。
○ 行政機関の種類
@ 行政庁・・・行政主体のために意思決定をし、それを国民に対して表示する権限を持つ機関。(○○大臣、○○県知事、教育委員会)
A 補助機関・・・他の行政機関(主として行政庁)の職務を補助する機関(B以下もほとんどがAの一種です)(次官、○○課長・・・)
B 諮問機関・参与機関・・・行政庁(からの諮問)に対して意見を答申・提起する機関。このうち、行政庁の意思を拘束する力を持つものを参与機関ともいう。(税制審議会など審議会、地方公共団体の議会)
C 執行機関・・・行政目的を実現するために必要とされる実力行使を行う機関(行政庁である場合もあります)・・・収用委員会、警察官
D 監査機関・・・行政機関の事務や会計の処理を検査し、その適否を監査する機関・・・監査委員、会計検査院
○行政庁に関して、次の二つの議論があります。
⑴ 独任制と合議制
行政庁は意思決定を行う機関として、通常は一人の自然人で占められます(独任制)。大臣、知事、税務署長などは独任制です。しかし、機動的な意思決定よりも政治的中立性や専門性が重要視される場合には、合議制を導入している場合もあります。(教育委員会、公安委員会)
⑵ 権限の委任と代理
行政庁は法令で定められた権限を自ら行使するのが本則です。しかし、場合によっては、その権限の一部を下級庁などに委任して行わせることもあります。この中に、「委任」と「代理」があります。
○委任・・・法律で定められた権限を他の行政庁に委譲するもの。委任を受けた側は、自らの名と責任において権限を行使する。法律上の根拠が必要です。
○代理・・・民法の代理と同様に、権限を別の行政庁に行ってもらうが、その効果は元の行政庁のものとなる。代理は権限の委譲ではない(意思決定を代わってやってもらうだけ)なので、必ずしも法律上の根拠は必要ではないとされています。法律上の根拠がある場合は、法定代理、そうでない場合は授権代理といいます。
○これらと少し違うものに、「代決・専決」というものがあります。
これは、権限者の部下が、意思決定を代わって行うもので、権限の委譲はなく、基本的には事務処理の一形態に過ぎないと考えられます。(ただし、専決行為であれば部下の責任が全く無いのかといえば、そうではありません。→百選25)
3 行政機関相互の関係
⑴ 権限の分配等
行政機関は行政主体の内部機関に過ぎませんから、行政機関相互に矛盾した意思決定や行動がなされることのないようにしなければいけません。(行政主体同士であれば矛盾はありえます。)
このため行政機関相互は、次のような関係にあるものと考えられて運用されています。
○ 権限の分配の原理・・・各行政機関の権限は、法令上、事項別あるいは地域別に定められる(分配されている)。他の行政庁は他の行政庁の権限を侵すことはできず、また、ある行政庁の行為は(権限内である限り)他の行政庁を拘束する。
○ 協議・相互調整の原理・・・二以上の行政機関の権限にまたがったり、各機関の間で所管争いを生じた場合には、関係機関相互に協議・調整をする。(相互調整で決まらない場合は内閣総理大臣が裁定する)
○ 監督の原理・・・行政機関は明確な階層性を持ち、上級機関が下級機関を監督する。上級機関に次のような権限が認められる。
・監視権・・・下級機関から報告をさせたり帳簿書類の提出・実地検査などにより状況を監視する権限。
・訓令権(指揮権)・・・下級機関が権限行使をするに当たって、事前に指図をしたり、承認をしたりする権限。
・取消権・停止権・・・下級機関の行った措置を取消したり停止したりする権限。下級機関の権限について法令に明文がある場合は、取消・停止にも明文がいると解される。明文が無い場合は、訓令権に基づき取消・停止を命じるということになる。
⑵ 機関訴訟
この行政機関同士では(法律で許されている場合を除いて)、裁判が起こることはありえません(なぜなら法的には一人の人格内部の問題だから、です)。裁判が許されるのは、「機関訴訟」という類型に合致している場合だけです。行政救済法の中で詳述します。
法人として別個のものであっても、他の行政主体の行政機関であると認識される場合もあります。(鉄建公団事件(百選2))(旧機関委任事務)
U 国
国という行政主体について、その構成を説明します。
国の行政権は、憲法に根拠を持つ「内閣」にあります。(「行政」という行為は司法府や立法府でも行っています。念のため)
内閣については、内閣法がそのあり方を定めています。
さて、Tの行政機関論では、行政主体の意思形成という観点から機能的な分類がなされたのですが、実際に存在する行政組織は、省や局、課といった組織に分かれ、それぞれごとに事務を整理しながら全体としてピラミッド構造を形作っています。行政組織は、この行政事務を分担する組織の単位で管理されています。国の行政組織について定めた法令は、このような「行政事務を分担する組織の単位」について定めるものとなっています。(組織単位としての「行政機関」)
このような各省の組織については、内閣府設置法と、国家行政組織法に基づく各省設置法が定めています。
⑴ 内閣法
内閣=内閣総理大臣+17人の国務大臣
閣議は内閣総理大臣が主宰する。
内閣官房の設置
臨時代理の規定
政令の限界に関する規定
⑵ 国家行政組織法
(府・)省・庁・委員会(このうち、府については、平成13年からは内閣府設置法で規定)
内部部局・外局、附属機関(審議会等、施設等機関、特別の機関)
地方支分部局
権限の分配・調整に関する規定
⑶ 内閣府設置法・各省設置法(各府省の紹介)