福井:行政法C(19.4.19)
序論W:行政法はどういう形で存在しているか。(法源)
1 行政のよるべき法の形式(「法源」)について
「法」は、国家が執行を担保しているルールです。「法源」というのは、その「法」を国家がどこから見つけ出してくるか、そのソース(源泉)のことをいいます。ここで「国家」といいましたが、私人同士がプレーヤーとなる私法の世界では、この「国家」は「裁判所」です。これに対して、行政法の世界では、プレーヤーに行政が入っていますので、まずは行政が「法」を見つけ出して個々の事案に適用し、その適用が正しかったかどうかを裁判所が判断する、という仕組みになります(これを行政の第一次判断権といいます。平成16年の行政事件訴訟法改正で少し変わりましたが、それはまたお話します)。
さて、近代国家では、ご先祖さまの遺訓や偉人の言葉がそのまま「法」になるわけではありません。一定の手順を踏んで定められたルールが、「法」になります(これは行政法の分野に限られたことではない)。行政法の世界は、行政側が法に基づいて一方的に法律関係を確定させるタイプの法的活動が多いことから、契約を中心とする私法の世界に比べて、成文法の形で国民に示されている必要がより大きい(不文法の働く余地が狭い)ということはできますが、実際には、行政の仕事の範囲が非常に広く成文法の定めがないこともあるため、不文法も利用されています。
我が国で「法」の源泉となる「法源」には次のようなものがあります(他の法分野と違いはありません)。は、成文法があるかどうか(有効かどうか)、成文法が無い場合にあてはめるべき不文法は何か、という順番で争われます。
@成文法
○日本国憲法 法律以下の法が有効か否かを判断する基準になるほか、国家補償の分野など直接の適用が議論されることもあります。
○法律 国会により策定される「法」で、最も主要な「法源」となります。もちろん、憲法違反の法律は無効です。
○条約 条約は国会により批准され、国内法としての効力を持ちます。(一般には、条約を施行するための法令を整えてから批准されることが多い。)
○命令 行政府が策定する「法」をいいます。日本国憲法のもとでは「法律」に反することはありえません。決定権者のクラスによって、「政令」「府省令」「外局規則」「告示」等の形式上の違いがあります。(「行政立法」の章で取り上げます)
○条例等 地方公共団体が策定する法のうち、議会が策定するものを「条例」、長など執行機関が策定するものを「規則」といいます。(これも「行政組織」や「行政立法」の章で取り上げます)
A不文法
○慣習法・・・河川法87条、官報による公布(百選44)、慣行による公水使用権(百選20)
○判例法・・・原則として判例に下級審は縛られない(もちろん実態的には大きな影響があります)。行政府は判例を行動基準とする。
○条理法・・・権利濫用の禁止(百選31)、信義則、平等原則、比例原則
2 根拠規範・規制規範・組織規範
法律の留保の議論に関して、次のような規範の分類が問題となることがある。(→「法律の留保の対象となる「法律」とは、下記の「根拠規範」でなければならないのではないか」)。ただし、国会で法律が決められるとき、これは○○規範、これは××規範という区分けをして決められるわけではありません。
⑴ 根拠規範 行政の活動の根拠を定めている決まり。
例えば、「○○大臣は・・・しなければならない。」「○○大臣は・・・することができる。」
⑵ 規制規範 行政が何らかの活動をするときに守らなければならない決まり。
例えば、「○○長官は・・・することをもってその責務とする。」(目的規範)「○○大臣は・・・しようとするときは、・・・しなければならない。」(手続規範)
⑶ 組織規範 行政の分担について定めた決まり。
例えば、「○○大臣は、(・・・のため、)・・・をつかさどる。」
行政組織法
今日から「行政組織法」に入ります。これは、「行政活動を行う側」について分析しようという分野です。
全体では、連休明けを含めて六回ぐらいを考えています。古典的な理論である「行政機関論(行政官庁論)」についてお話したあと、国の行政組織(ここでは「内閣法」や「国家行政組織法」についても紹介します)、地方公共団体について紹介し、その後、行政主体の一種となることのある「政府関係法人」と、行政組織で活用される「資源」であるヒト・モノ・カネ・情報についてお話する、予定です。
T 行政機関理論
まずみなさんに学んでもらおうと思うのは、大陸法系の理論である「行政機関論(行政(官)庁論)」といわれるものです。
⑴ 行政という活動の主体は誰か。(行政主体論)
⑵ 行政主体の中はどのような構造になっているのか。(行政機関論)
⑶ 行政機関相互の関係はどのようになっているのか。(権限の分配・調整)
だいたいこのような構造になっています。たいへんよくできた理論です。
さて、この行政官庁論について考えていただくには、まず、民法の「法人論」を思い出して欲しいと思います。「行政官庁理論」あるいは「行政機関論」といわれる考え方は、要するに民法の「法人論」を行政の世界に当てはめたもの、と考えてください。
(このへんから次回!)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 行政主体
「行政という活動の主体は、県庁とか交番とかの「役場」ではないですか」
というひとがいるかも知れません。場所としての「役場」のことを「官公署」といいますが、そこは「行政の活動が行われる場所(のひとつ)」というだけで、行政を行う権利・義務の主体そのものではありません。また、「公務員」という概念もありますが、これは(別途説明しますが)行政を行う権利・義務の主体と雇用関係を結んだ自然人のことで、もちろん「公務員」が働かないと行政は活動できないのですが、権利・義務の主体になるわけではありません。では、「官公署」に存在し、「公務員」を雇って働かせているのは「ナニモノ」でしょうか。
民法の世界では、経済活動の主体は、権利義務の主体である「人」です。人には、われわれ「自然人」と「法人」がありました。「行政という活動の主体」も、行政に関する権利義務(以下「行政権」と言い換えます)の帰属する主体を指し、その主体のことを行政主体といいます。このような行政主体になりうるのは、以下のようなもので、すべて「法人」であると観念されます。Aの行政主体の行政権は、@から分与されているものです(つまり、@が作った法律によって、行政権を持つことになっている、ということです)。
(この中で、@だけが法令上「法人」とは明定されていませんが、権利義務の帰属について法人として扱われているので、法人であることに間違いはありません。)
なお、自然人は行政主体になりえるでしょうか。近代憲法下では、「君主」自身は財産権の主体となりえますが、それは「王室財産」の主体(つまり、一般の私人の財産権と同じ)であって「行政主体」ではありません。
@ 国
A 公共団体
・地方公共団体
・公共組合
土地区画整理組合・土地改良区
健康保険組合・農業共済
・ 独立行政法人、特殊法人、認可法人、第三セクター、その他
国と地方公共団体については問題無いと思いますが、それ以外の法人が行政権を分与されていることに少し違和感があるかも知れません。それぞれの行政主体については、別途説明します。
2 行政機関(権限による分類)
行政主体は「法人」でした。民法法人でもそうでしたが、「法人」には「機関」が必要です。法人のために意思決定その他の事務を行う自然人(またはその集合体)のことです。行政主体の中身はどうなっているのでしょうか。
行政主体と雇用関係を持ち、その業務を行っている自然人のことを「公務員」といいました。「公務員」は、法令に従って特定の権限(仕事)を持っています。公務員を権限の保有者としてみたとき、これを「行政機関」といいます。(逆向きにいえば、「行政機関が権限の範囲で行った活動の効果は、行政主体に帰属します。」という言い方もできます。さらに「行政機関は人格を有しない」という言い方もします。)
(注)「行政機関」には、「行政事務を分担する組織の単位」という意味もあり、国家行政組織法はそのような考えに立っています。次回説明参照のこと。
行政主体の中身を「行政機関」に分けて見てみましょう、というのが「行政機関理論」です。行政機関は「権限」に着目した概念ですから、その権限によって分類してみると、行政機関には次のようなものがあります。
○ 行政機関の種類
@ 行政庁・・・行政主体のために意思決定をし、それを国民に対して表示する権限を持つ機関。(○○大臣、○○県知事、教育委員会)
A 補助機関・・・他の行政機関(主として行政庁)の職務を補助する機関(B以下もほとんどがAの一種です)(次官、○○課長・・・)
B 諮問機関・参与機関・・・行政庁(からの諮問)に対して意見を答申・提起する機関。このうち、行政庁の意思を拘束する力を持つものを参与機関ともいう。(税制審議会など審議会、地方公共団体の議会)
C 執行機関・・・行政目的を実現するために必要とされる実力行使を行う機関(行政庁である場合もあります)・・・収用委員会、警察官
D 監査機関・・・行政機関の事務や会計の処理を検査し、その適否を監査する機関・・・監査委員、会計検査院