福井:行政法B(19.4.17)
序論V:行政法の歴史について(日本篇)
我が国の行政法の歴史についてみてみます。日本史の知識を思い出してください。これからの授業のベースになる、我が国における行政法の発展のイメージができるといいのですが・・・。
前回説明しきれなかった4月12日レジュメAの「2 行政の役割について」が前提になります。前回使えなかった「行政法の展開」の図を再度配布しますので、これを参考にしながら聴いてください。ポイントは、
憲法以前→大日本帝国憲法→日本国憲法→21世紀型行政の流れの中で、
・ 防御権体系(行政介入の排除)
・ 三項関係(行政介入の要請)
・ 給付行政
・ 行政活動の公正・透明・簡素化
という概念を理解いただくこと、です。なお、年表に出てくる事項は説明の都合で選んでいます。影響の重大性といった特定の観点で選んだものではありません。
1 近代国家以前
江戸時代(幕藩体制) 行政(藩)と国民(領民)の関係は?
何らかの行政目的のために国民の行動を禁止し、違反者に罰則を与える、という仕組み自体は一見近代国家と同じですが、そこには「法律」の関与がありません。また、行政の仕事は、調達行政と規制行政が主たる業務であったと考えられます。
※ 法律・・・国民の代表である「議会」が策定した「法」
※ 命令・・・「議会」ではなく「行政」が策定した「法」
2 近代国家の展開
「明治維新」(1868)後すぐ近代が訪れたわけではありません。明治政府はいろんな試行錯誤をしながら、大日本帝国憲法の制定に至っています。
・明治2:版籍奉還
・ 明治4:新貨条例、廃藩置県(この時点で309府県)(近代的地方行政の開始)
・ 明治5:国立銀行条例(近代的な財政・金融の開始)
・ 明治6:地租改正条例(近代的税制、所有制度の創設)、徴兵令、郵便事業(政府独占)開始
・ 明治10:西南戦争
・ 明治12:琉球処分、コレラ大流行(中央衛生会の設立)
・ 明治13:伝染病予防規則、刑法公布
・ 明治14:国会開設(明治23)の詔書
・ 明治15:日本銀行開業
・ 明治16:医師免許試験規則
・ 明治18:内閣制度創設
・ 明治21:東京市区改正条例公布、47道府県の確定(最後は香川)、市制・町村制
○大日本帝国憲法(1889。ちなみに東海道本線の新橋・神戸間が開通した年です)
いわゆる明治憲法にはいろんな評価がありますが、「行政法」との関係での主な特徴を書き出してみますと・・・
帝国議会の創設
広汎な行政立法権限
行政裁判所制度
各省大臣の単独輔弼、枢密院の存在(、官選知事制)
・ 明治22:国税徴収法(→昭和34国税徴収法(新))
・ 明治23:帝国議会開院
・ 明治27:日清戦争(〜28)
・ 明治30:足尾鉱毒調査委員会発足、古社寺保存法公布(→昭和25文化財保護法)
・ 明治31:義和団事変
・ 明治32 耕地整理法(→昭和24土地改良法、昭和29土地区画整理法)
・明治33 行政執行法(→昭和23行政代執行法)、土地収用法(→昭和26土地収用法(新))
・ 明治37:日露戦争(〜38)、煙草専売法
・ 明治38:郵便貯金法、塩専売法
・ 明治40:自動車取締規則
・ 明治43:大逆事件、日韓併合
○ 大正デモクラシー
明治から大正に移り変わるころから、「大正デモクラシー」といわれる民主的な思潮の支配する時代が来ます。この間に、政党内閣制が「憲政の常道」と称されるようになり、また「天皇機関説」が憲法解釈として力を持ちます。
※ 美濃部達吉(1873〜1948)
・ 明治44 工場法公布、東京などで職業紹介開始
・ 大正3 第一次世界大戦(〜8)
・大正5 簡易生命保険法
・大正7 警視庁に赤バイ配置、大阪府が方面委員制度開始
・大正8 自動車取締令、都市計画法(→昭和43都市計画法(新))、市街地建築物法(→昭和24建築基準法)
・大正10 職業紹介法(→昭和22職業安定法)
・大正11 借地借家調停法 大正13 小作調停法(→昭和26民事調停法)
・大正14 治安維持法
・昭和2 健康保険法全面施行
○ 昭和恐慌、戦時体制
しかし、その後、第一次世界大戦後の不況や関東大震災が日本経済に大きな影響を及ぼすようになり、昭和初期の金融恐慌・満州事変、農村恐慌を経て、我が国が全体主義的な社会に変化していくとともに、行政の役割が肥大化し、やがて「統制経済」の時代になっていきます。
・ 昭和4 失業救済事業
・ 昭和6 満州事変
・ 昭和7 農山漁村経済更生計画、救護法施行
・ 昭和10 天皇機関説事件
・ 昭和12 日中戦争
・ 昭和13 国家総動員法、電力管理法、国民健康保険法、農地調整法
・ 昭和14 米穀配給統制法 (→昭和17食糧管理法(平成17廃止))
・ 昭和15 大政翼賛会発会
・ 昭和16 太平洋戦争(〜20)
3 日本国憲法(1947)の制定
○ 憲法の制定
終戦後、日本国憲法が制定され、行政のあり方も大きく変わります。大きなところを見てみるだけでも次のような変化がありました。
国会(立法権)との関係・・・緊急勅令などの行政立法のあり方が変化
裁判所(司法権)との関係・・・英米型司法制度の導入(・・→行政事件訴訟法(昭和37))
社会権(生存権)の確立
地方自治法・・・官選知事制度の廃止、自治体警察
国家行政組織法・・・官制大権の否定、行政委員会制の拡大
国家公務員法
国家賠償法
行政代執行法(行政執行法の廃止)
○ 高度経済成長
その後、我が国は世界でも有数の先進経済国に成長していきます。その間、行政のあり方についてもいろんな議論がなされました(昭和36〜39第一次臨調、昭和56〜58第二次臨調など)。この間に、都市問題や公害対策、医療・社会福祉、教育・文化行政などの面で行政の役割は大きく拡大しましたが、一方で、高度経済成長から安定成長に移行する過程で、「日本株式会社」といわれるような官民が一体になった産業振興や「政・官・財の鉄の三角関係」といわれる規制行政などが問題視されるようにもなってきました。
・ 昭和33 国民健康保険法
・ 昭和34 国民年金法(昭和36〜 国民皆保険・年金制)
・ 昭和35 所得倍増計画
・ 昭和36 農業基本法
・ 昭和42 公害対策基本法(昭和43 大気汚染防止法、騒音規制法)
・ 昭和47 沖縄返還
・ 昭和48 第一次オイルショック、国民生活安定緊急措置法
・ 昭和55 第二次オイルショック
・ 昭和61 JR各社開業
4 21世紀型行政
1990年代から、行政のあり方について、大きな変革の時代が来ています。講義の最後の方でまた振り返ってみたいと思いますが、自己責任を旨とする経済活動、新しい政治の潮流、情報社会化・国際化などの社会全体の変化に対応するものだということができると思われます。
・ 行政手続法(平成5)
・ 行政情報公開法(平成11・13施行)、行政機関個人情報保護法(平成15)
・ 地方分権推進法(平成11・13施行)
・ 省庁再編(平成11・13施行)
・ 行政事件訴訟法改正(平成16)・・・・・・