福井:行政法@(19.4.10)
序論T:「行政法」とは何ですか?
1 行政法とは何か
○法学なんて一つの分野でいいような気がするが・・・。
・「法」となにか。
・契約と違う法原理の働く世界
さて、六法をひっくり返しますと、憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法・・・、「行政法」という法典は存在しない。
では「行政法」とはどのような法を指すのか。「行政に関する特別な法」というのが一番一般的な定義ということになる。(「特別」というのは、民商法とは違う、という意味です。)
○ では「行政」とは何か。
・控除説
・積極説
○「実はここにも行政法」・・・「行政に関する法」は、あちこちにあります。
例えば、
@ 自動車運転免許(道路交通法)
A 水道契約(水道法、水道条例)
B 大学の運営(学校法、私立学校法)
C 婚姻の届出(民法、戸籍法)
「行政法」に分類される実定法は、国家行政組織法、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、行政情報公開法、行政代執行法・・・といった行政一般に適用される共通的な法令(通則法)と、国税徴収法、道路交通法、食品安全法、銀行法・・・といった行政の特定分野に関する法令とから成る。しかし、この分野に属する法律の数は1000以上といわれ、個々の法律をすべて学んでいくことは不可能である。
行政法には、行政法全体を通じるルール(上記の「通則法」のような)について講じる「総論」の世界と、一定の分野ごとに行政に関する法を講じる「各論」の世界に分かれる。
この講義は、以上の意味での「行政法総論」、つまり、行政の活動を通じて適用されるルールに関する学問、ということになる。(ただし、「通則法」は行政のはたらくすべての過程について定められているわけではないので、「通則法」だけが対象になるわけではありません。)
2.行政法(総論)の構成について
この「行政法」という講義について述べます。講義の全体構成は次のようになります。
序論(行政法とは何か、その基本ルール)
@行政組織法(行政組織の編成の仕組みとそこに働く法的原理を対象とする法分野。行政の担い手について)
A行政作用法(行政が国民・住民に対して働きかける「作法・やり方」(行政の行為形式)を定める法分野。行政と国民との関係)
B行政救済法(行政の活動に対して国民・住民の側が是正・賠償を求める手順などを定める法分野。行政の活動に対する事後救済)
なお、この講義の目的は、行政法(総論)学という学問について、大まかなスケッチをすること。さきほどの「各論」の世界やあるいは「行政法」の対象となる「行政」の世界やその背景となる「政治」の世界についても必要に応じ触れますが、興味のあるひとは、それぞれを専門にする学問分野に進んでください。
3 行政法という考え方の意義
行政法を学ぶ意義については、この先、だんだんイメージがわいてくると思います(と信じます)が、とりあえずは次のような二つの意義があるといわれます。
⑴ 憲法の執行法
憲法には、行政のあり方に関する規定がたくさんあります。人権に関する規定、統治機関に関する規定、さらに平和に関する規定も行政の活動に関する規定だといってもいいかも知れません。近代憲法は「君主権」との闘争から形作られた、ことになっているので、その君主権を継承する行政について、注文をつけるのが憲法の一つの目的でもある。
憲法の分野では、統治機関のひとつである「内閣」までは論じますが、ではこの「内閣」はどのように構成されるのか(行政組織法)、「国会」が作った法律はどのように「行政」を拘束するのか(行政作用法)、「行政」の活動に不服がある場合、国民はどのような形で「司法」などに異議申立ができるのか(行政救済法)については、細かくは「行政法」という分野に委ねられているということです。
「行政法」を「憲法」とセットにして考えるのは、戦前の「国法学」という考え方以来のものですが、大日本帝国憲法(君主権(行政権)優位)を前提とした戦前の法学とは違い、現在の「行政法」は、国民が政府をどのようにコントロールするか、という問題意識に答えるもの、として再構成されています。国民(住民)は、立法(国会、地方議会)を通じて、あるいは直接(意見提出(パブリック・コメント)、不服申立、計画参加手続、官民協働など)間接(世論の構築、審議会等外部者の意見への反映など)に、または司法への訴えを通して、「政府」(国、地方公共団体)に対してコメントをすることができなくてはならず、その方法を考察する学問として「行政法」を考えるものです。
⑵ 民法の特別法
「行政法」という分野は、近代自由主義の動きの中で、「民法」(私法)の原理の適用されない、あるいは適用の制限される「場」として「公」という「場」があり、この「場」で適用される「法」(公法)について考えて行こうとするものです。
民法はローマ時代以来の長い歴史を持っていますが、近代になって、王権を「法律」によって制限しよう、という考え方が主流になったとき、私法の原理だけでは実質的な制限ができないことに気づいた(例えば、「契約の自由」を王権との関係で徹底させればどうなるか)。
そこで、法の一般形はローマ法やゲルマン法以来の古い「私法」なのだが、「公」の世界ではその私法の一般原則を適用せず、「特別法」としての「公法」を適用する必要がある、と考えられるようになった(「公法」の中の一番はっきりしたグループが刑事法だと考えるとわかりやす・・・くないですか?)。
例えば、道路交通法の「免許」には、契約自由原則が適用されない。また、水道法では「契約」という形で「私法」が適用されているが、行政の方に特別に義務(供給義務)が課されています。
なお、授業で使ったレジュメなどは、下記のHPにアップしておきます。復習に使ってください。
http://www.mugyu.biz-web.jp/
・「行政」の概念について
・控除説
・積極説
・ 各論について
このうち「各論」については、個別法分野の講座が設けられるのが通常。(個別各論分野・・・例えば、 税法、地方自治法、都市法、警察法、環境法、経済法、・・・
・ 進め方について
この講義、28回+−ぐらいのつもりですが、だいたいの振り分けは、序論に今週〜来週を使い、その後、五月の連休明けまでに行政組織法、そこから行政法の中心部分でもある行政作用法を6月中下旬まで、その後試験前までを行政救済法について論じ、最後の授業で全体の復習をする、という流れで考えています。
・ 近代民法の三原則
○当事者間の合意の優先(契約自由)
○責任はその行為をした者に帰属する(行為責任)
○不法な行為がありうる(不法行為責任)
について、18〜19世紀には、そのままでは「公」の場には適用できない、と考えられた。(現代では、民法の方の考え方も変わってきているし、また、「公」に対してそのまま適用されている原則もあります。)