行政法14(19.7.18)
行政作用法各論C
行政行為(4)
5 行政行為の附款
⑴ 定義
行政行為には、当該行政行為の効果を制限したり、あるいは特別な義務を課すため、主たる意思表示に付加される行政庁の従たる意思表示が付されることがあり、これを「附款」という。(附款は、行政庁の☆1のほか裁量範囲内で付されることになる。)
☆ 1 法定附款・・・法律に基づく行政庁の判断ではなく、法律自身が特定の行政行為の効果を制限する規定を置いている場合(例:国家公務員法第59条・条件附任用期間)
☆ 2 附款が付けられる行政行為は、法律行為的行政行為に限られるとされる(準法律行為的行政行為には裁量の余地がないため)。ただし、効力の発効時期(時の裁量)や、法文が条件を附することを認めている場合(最高裁昭和57年4月23日判決)については付しうる。
⑵ 附款の種類
@ 条件・・・行政行為の効果を発生不確実な将来の事実にかからせる意思表示。
@)停止条件(その事実の発生により効果が生じる)
A)解除条件(その事実の発生により効果が消滅する)
A 期限・・・行政行為の効果を将来発生することが確実な事実にかからせる意思表示。
@)始期(効果が発生する時期・・・○月○日から〜)
A)終期(効果が消滅する時期・・・○月○日まで〜)
※ 「一年の期間使用を認める」「一年の期間を限り免許を与える」→公園の店舗や放送免許などで、短い期間が定められているものがあるが、これは(施設の耐用年限などから見て)行政行為の効果が消滅する期限(終期)と見るべきでなく、占用料改定などの「条件」の改定期間と解される。
B 負担・・・授益的な行政行為に付される意思表示で、相手方に特別の義務を命ずるもの。
例えば、公設運動場(公共の施設)の使用許可に当たって利用料を支払う、運転免許にあたり運転者に眼鏡等使用を義務づける。
☆ 負担違反だけでは当然には本体の許可等が取消されるわけではない(法令に基づき罰則が適用される場合はある)点に注意(あくまでも従たる意思表示)
C 取消権(撤回権)の留保(「行政行為の取消・撤回」の項)
D 法律効果の一部除外(旅費の不支給など。法文に根拠のある場合に限定)
⑶ 附款が付けられる場合、付けられない場合
法律行為的行政行為のうち、ア)法律が附款を付けられると明記している場合(「条件」)、イ)法律行為の内容に行政庁の裁量権が認められている場合、に付しうると考えられている。
当該行政行為を定めた法律の目的に無関係な事項(違法結合)や必要最小限を越えた過大な義務(比例原則違反)の附款は違法になる。
6 行政行為の瑕疵
⑴ 瑕疵ある行政行為とは?
行政行為は、適法で、かつ公益に適合していなければならない。違法な行政行為、不当な行政行為は「キズモノ」であり、瑕疵ある行政行為と呼ぶ。→ただし、「公定力」(5月25日)により、行政行為に瑕疵があっても「有効」である。
瑕疵がある行政行為は、(違法不当なのであるから)取り消されることが原則。→ただし、「不可争力」により放っておくと適法になる。
※ 「取消し」・・・権限ある者がその行為を取消す旨の意思表示をして、その効力をはじめからなかったことにすること。
しかしながら、瑕疵ある行政行為の中には、取消すまでもなく効力を否定しないと明らかに不合理・不正義な事項がありうる。そのような行為を「無効な行政行為」と呼ぶ。(ただし、無効な行政行為については、行政庁側が無効を認めない限り、現実には存在する行政行為であり、裁判所等の判断を待って、はじめて「はじめから無効な行政行為」だったね、となるです。)
なお、このほか、「行政行為の不存在」という場合がありえる(現在の行政事件訴訟法では「無効等」の中に含まれる)。
⑵ 無効な行政行為の特徴
@「無効な行政行為」という概念を作った理由は?
→「取り消す」という行為を要さずに効力が否定されるという点で、「取り消しうべき行為」と、訴訟法上の扱いが違ってくる。「無効等確認訴訟」は、
・出訴期間に限定がない(取消しうべき行為・・・六ヶ月)
・不服申立の前置を要する場合にも不服申立が不要
とされている。なお、かつては、行政裁判所の管轄との関係という大問題があった。
☆救済法との関係で頭を整理してみてください
○無効な行政行為・・・誰でも、いつでもその効力を無視できる→「公定力」「不可争力」の例外(すなわち行政事件訴訟法の取消訴訟の例外→無効等確認訴訟の対象)
○取消しうべき行政行為・・・違法ではあるが有効。裁判所や権限ある行政庁の取消しを待ってはじめて効果を失う→取消訴訟の対象
○行政行為の不存在・・・行政行為そのものが無い、と考えられるもの。誰でも、いつでもその存在・効力を無視できる→無効等確認訴訟の対象
A「無効な行政行為」と「取消しうべき行政行為」とをどうやって見分けるか
イ)実現不可能説(オットー・マイヤー)・・・無権限な国家機関が発した行政行為、内容が不明確、実現不可能な行政行為(いないひとを徴兵する)
ロ)権能付与規定違反無効説(美濃部達吉)・・・行政権の行使を制限する規定違反は取消しうべきもの、行政権に権能を付与する能力規定の違反は無効とするもの(「〜してはならない」「〜することができる」)
ハ)重大明白説(通説・判例)・・・行政行為が当該行為の根幹にかかわる重要な要件に違反しており、かつ、そのことが客観的に疑う余地なく明白であれば、無効。瑕疵の認定が常人にも(行政機関外の裁判官にも)可能であるし、それをそのまま有効とする実益(第三者を保護する)もない。それ以外の瑕疵のある行為は、取消しうべきもの。
B重大明白説でいう「明白」について
@)一見明白説・・・瑕疵が明白である、とは、処分成立の当初から誤認であることが外形上客観的に明白である場合を指し、行政庁がその怠慢により調査すべき資料を見落とした否かには拘わらない。(最高裁昭和36年3月7日判決)
A)客観的明白説・・・一見明白な場合に加え、行政庁が特定の行政処分をするに際しその職務上当然に要求される調査義務を尽くさず、しかも簡単な調査をすることにより容易に判明する重要な処分要件の存否を誤認してなした場合にも、明白な瑕疵があると解する。(東京地裁昭和36年2月21日判決)
無効認定とは、取消訴訟を行わなかった者の救済の便法である。@行政庁の側の重大な過誤、A国民の法益侵害が深刻、B救済を認めても公益や第三者に影響がない、という場合に無効と認めればいい。
実際の判例でも、「明白要件」について問題にしていない場合があり、判例の実態は「重大+必要な場合に明白」説と考えられる。
ニ) 重大説・・・第三者保護の必要のない場合に、瑕疵の明白性を問題にせずに無効とした例(最高裁昭和48年4月26日判決)。
⑶ 無効となるような瑕疵の事例
@ 主体に関する瑕疵・・・無権限な行政庁の処分は無効な行政行為
ア)正当な権限がない行政庁の行った行政行為(公安委員会でなく知事が行ったデモの許可、村長が行った借入金の受理)
イ)組織や構成に重大な瑕疵のある合議体の行政庁の行った行政行為(定足数の足らない議会の行った除名処分)
ただし・・・審議会の審議に無資格者が参加していても議決の結果を覆すに足りない場合には瑕疵はあるが無効ではない。(最高裁昭和38年12月12日判決:百選119)
※ 「事実上の公務員」の理論・・・正規の手続きで公務員に選任された者が外観上も公務員として行った行為は、法秩序の安定・継続性のために有効となる。
(例えば、解職請求によりA村長が解職され、次の選挙が行われてB村長が選出された場合、解職請求が定数不足で無効であったとされるとA村長は復職するが、B村長の行った行政行為は無効ではない。最高裁昭和35年12月7日判決)
ウ)意思表示を行った行政庁の意思に欠陥がある場合
・泥酔状態や強度の強迫状態で行った意思表示は無効と解される。
注)ただし、瑕疵ある意思表示(民法93条〜96条)を行った場合、行政行為は客観的に法律に適合していれば、行政庁の意思表示に瑕疵がある(たとえば錯誤に基づくものであっても)ときも、法治行政の原理が働いて、適法となる(行政行為の外観主義)のが原則(最高裁昭和28年6月12日判決)であり、泥酔というほどまで酔っ払ってなかったり、詐欺に引っかかったり、強度でない強迫を受けて行った意思表示は有効となる。
A 手続に関する瑕疵・・・法律上要求される手続きを無視した場合、瑕疵ある行政行為となるが、原則として取消しうる行政行為となるものと考えられる(判例の考え方)。(さらに、結論に影響を及ばせることがないと判断されれば、取消事由にもならない。)
※ 手続のミスは次の手続きに移ったときに、相手方から問責されるべきことであるから、それだけで無効とする必要はないと考えられるが、相手方に不意打ち不利益を及ぼす処分などは無効とされる余地がある。(有力説@)
※※ 手続がア)行政の公正を期すためのものか、イ)利害関係人の保護を期して設けられたものか、を区別し、後者であれば無効と考えてはどうか。(有力説2)
ただし、同意を必要とする行政行為において同意を欠く場合は、無効事由になる。(国籍の得喪について、最高裁昭和32年7月20日判決)
B 形式に関する瑕疵・・・行政行為は一般的に非要式行為であるが、法令によって書面主義をとっている場合には、書面による処分を行わなかった場合は無効となる。また、書面主義となっている場合に「理由付記」※が求められている場合があり、この場合に十分な理由付記がないと取消事由となる(最高裁昭和37年12月26日判決:百選144)。
※ 理由付記・・・行政庁の判断を慎重・公正にするとともに、相手方が不服ある場合に不服申立に便ならしむるために付されるもの。行政手続法の項参照
C 内容に関する瑕疵・・・重大明白説が主として適用される分野。上記判例のほか・・・
・ 処分内容不明確(収用範囲が明確になっていない土地収用裁決)
・ 実現不能(死んだひとに対する営業許可=対人許可)
・ 通常人なら誰でも容易に気づく事実誤認に基づくもの(人違いの懲戒処分、現状宅地に対する農地買収)