行政法10(19.6.25)

 

行政作用法各論@

行政行為(1)

1 定義   2 行政行為の種類(許可・認可・特許・・・) 3 行政行為の効果(公定力、執行力)

4 行政裁量(羈束裁量、便宜裁量) 5 行政行為の附款(条件、負担)

6 行政行為の瑕疵(無効原因、取消原因) 7 行政行為の取消・撤回

 

1 定義

行政行為とは、行政の活動のうち、次のような要素を持つものを指す学問上の用語です。

@    国民の権利義務に影響を与える法的効果があること。

A    その効果が特定個人の権利義務に及ぶものであること。

B    行政庁の一方的な行為であること。

言い換えると、

☆ 行政庁が行政目的を実現するために、@一方的に、A国民の権利義務(作為・不作為など)その他の法的地位をB具体的に決定する行為。

 

 「行政行為」の概念は、民法の「法律行為」の概念をもとに作られたものです。民法との対比で考えると、イメージがつきやすくなるとともに、行政法の特異性が明らかになると思います。

 

○行政がしごとをしていく中では、実態的には、行政と国民は「合意」あるいは「ある程度の合意」をして、権利義務関係を確定している場合が多い。

(ア)「行政契約」の場合(法的にも合意)

(イ)申請に対する許可の場合、税金の申告・税額確定の場合、生活保護の申請・給付決定の場合・・・

○ただし、公共の利益のために、行政庁の意思のみによって権利義務関係を作り出すことがどうしても必要になることがある。上記でも、イ)の場合、国民が納得いかないからといって行政の側がその実施・不実施を断念するわけにはいかない。そこで、法律により、行政庁に一方的に法律関係を形成・確認させることができるようにする仕組みが「行政行為」であり、「行政法」の最大の特徴であるといわれる。

○「行為」という用語を使っているが、次のような行為は「行政の行為」であっても「行政行為」ではない!のです。

a 行政の内部での行為(命令・訓令)(B)

b 特定人の権利義務関係に法的効果を及ぼさない行為は行政行為ではない。(事実行為、行政指導)B

c 一方的判断でなく双方合意で法的効果を作る行為は行政行為ではない。(行政契約:なお、契約の原則に基づき、契約の解約は一方的に行えるが、これは行政に限られたことではない)(A)

     「同意を要する行政行為」・・・公務員の任命

     「形式的行政行為」・・・年金の給付

d 国民の権利義務を一般的に定める法の定立は、行政行為ではない。(行政立法、行政計画)(C)

 

  ○「行政行為」は、学問上の用語。実定法上の用語としては、

    行政手続法、行政事件訴訟法、行政不服審査法上の概念→「処分」・・・「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」    

が、行政行為にほぼ等しい、とされている。

(「公定力」(別項)を持つ行為が行政行為であり、公定力の無い行為は行政事件訴訟法の対象にならないから、等しくなる。実務上少しだけ「処分」の概念の方が広いとされている。)

そこで、「行政行為」といわずに、「行政処分」と呼ぶ学説もある。

 

2 行政行為の種類

 ⑴ 法律行為的行政行為

   行政庁が一定の法律効果の発生を欲し(効果意思)、これを外部に表示することによって成立する行政行為

   (「こういう場合ならこうなるようにしよう」(「裁量論」→別項)という意思を持って、行う行為)

@         命令的行為・・・国民に一定の作為・不作為の義務を命じる(あるいは逆にその義務を解除する)行為。(自由権の制約)

   「こういう場合ならこうしろ」と法律が定めている場合が多い。(羈束行為)

ア)          下命、禁止  イ)許可   ウ)免除

A         形成的行為・・・国民が本来なら有していない特殊な権利・能力などの法的地位を与えたり奪ったり(形を成すように)する行為。

   「こういう場合ならこうしてもいい」と定めている場合が多い。(裁量行為)

エ)          特許、剥権行為  オ)認可  カ)代理

 ⑵ 準法律行為的行政行為

   意思表示以外の判断・認識の表示に対し、法律が(自動的に)一定の法的効果を結合して、行政行為となるもの。

     (こうしよう、という意思ではなく、「こうです」という判断に、法律が自動的に法律効果を付与する(こうしよう、という意思の部分は法律が分担。「こうしよう」がなければ法律効果が無く、単なる事実行為)。)

キ)確認  ク)公証  ケ)通知  コ)受理

   

※これらの分類用語は「講学上の」用語(つまりモデル)であり、実定法上の用語は区々である。また、実定法上の行政行為は、これらの分類モデルの諸要素をいくつか持っていたりするので、「行政法各論」的には、ひとつひとつの法律ごとに分析する必要が出てくる。いろいろ事例は並べてあるが、それぞれについて争いもあるので、実定法の例を細かく覚える必要はない。ここでは、分類用語について、一応の理解をしておくことがポイント。

    (なお、近年の有力説では、上記のような法律行為的・準法律行為的という分類を不要とし、命令的行為、形成的行為、確認的行為に分類すればいいとしたり、さらに確認的行為についても行政行為という分類の中に入れる必要はない、としたりするものもある。)

ア)下命、禁止

 下命・・・国民に一定の行為をする義務(作為義務)を課する行為

     納税命令(税法) ※確認の一種(税額を確認する行為)とする説もある

     違法な建築物の除却(建築基準法)

禁止・・・国民に一定の行為をしてはならない義務(不作為義務)を課する行為

     営業を禁止する

     違法な建築物の使用を禁止する

     侵害行政の典型である。

イ)         許可・・・既に法令や従前の行政行為によって課されている一般的な禁止を特定の場合に解除する行為

     風俗営業(法律が罰則を以て禁止)の許可

     集団示威行動(道路の許可使用:公安条例など)の許可

     自動車運転の「免許」

     許可は自由の回復であることから、「こういう場合なら許可する」という「場合」を行政の自由な判断に任せることはあまりない。→原則許可制、先願主義

ただし、原則許可制でない場合もある。(自然公園区域内での開発許可など)

ウ)         免除・・・既に法令や従前の行政行為によって課されている作為義務を、特定の場合に解除する行為

     児童の就学義務免除(学校教育法)

     納税の猶予(税法)

  エ)特許・剥権行為

 特許・・・ひとが生まれながらには有していない権利その他法律上の力・地位を特定の人に付与する行為

     鉱業権の設定(鉱業法)・・・他人の所有する土地の利用ができる。

     土地収用の際の事業認定(土地収用法)・・・事業用地の公用収用が可能になる。

     河川占用権

     公企業の特許(「許可」)・・・電気事業、ガス事業、バス、鉄道など公益性の高い事業については、その事業が国民生活にとっては必須のものであることから、厳しい参入規制(受給調整)の下での事業許可、その後の業務への監督、業務廃止の承認などの規制が行われる。(近年は規制緩和により、特許から許可に移行している業種もある)

剥権行為・・・特許により与えた権利・地位を剥奪する行為(占用権の取消など)

☆ 一定の地域に一しか同業種の営業が認められない場合の行政行為

  公営浴場(許可「許可」)(先願主義)(百選70)

申請が先に出てきたものから審査し、法定の基準をクリアーしていれば許可→二番目に申請したものは×

電気事業(特許「許可」)

  一定の期間内に申請のあった者の中から、もっとも確実に事業をなしうる能力のあると(行政庁が)判断する者に「許可」を与える。

オ)認可・・・私人間で締結された契約などの法律行為を補充して、その法律上の効果を完成させる行為

     農地の権利移転の「許可」・・・契約の補完

     河川占用権の譲渡「承認」・・・契約の補完

     土地改良区の設立「認可」・・・合同行為の補完

     認可を必要とするのに認可を受けてない契約等は効力を生じない。(認可を条件とする停止条件付契約)しかし、一方で、認可はあくまでも民法等で規定されている私人間の法律行為を補完するものに過ぎないので、本体の契約や合同行為が無効なら、認可があっても有効になるわけではない。  

☆ 法規違反の契約

     食品衛生法による許可(「許可」)を受けずに行った食肉の売買

       取締法規によって本件取引の効力が否定される理由はない。→有効

     農地法による認可(「許可」)を受けずに行った農地の売買契約

       現実に知事の「許可」がない以上、農地所有権移転の効果は生じない →無効

カ)             代理・・・第三者がなすべき行為を、行政が代わって行い、当該第三者が自ら行ったのと同じ効果を生じさせる行為

     土地収用「裁決」・・・当事者の合意に代わる裁定

     独立行政法人等の役員の選任

     この分類は特許の一類型、とみる考え方もある。

(次回は「準法律行為的行政行為」から)