福井:行政法B(19.5.7)

序論V:行政法の歴史について(日本篇)

我が国の行政法の歴史についてみてみます。日本史の知識を思い出してください。これからの授業のベースになる、我が国における行政法の発展のイメージができるといいのですが・・・。

ポイントとなるのは、憲法以前→大日本帝国憲法日本国憲法21世紀型行政の流れです。

キーワードは、防御権、行政介入請求権、給付請求権 と 行政活動の公正・透明・簡素化 です。

 

1 近代国家以前

 江戸時代(幕藩体制) 行政(藩)と国民(領民)の関係は?

  何らかの行政目的のために国民の行動を禁止し、違反者に罰則を与える、という仕組み自体は一見近代国家と同じですが、そこには「法律」の関与がありません。また、行政の仕事は、調達行政と規制行政が主たる業務であったと考えられます。

     法律・・・国民の代表である「議会」が策定した「法」

 

2 近代国家の展開

「明治維新」(1868)後すぐ近代が訪れたわけではありません。明治政府はいろんな試行錯誤をしながら、大日本帝国憲法の制定に至っています。 

    明治4:廃藩置県(この時点で309府県)(近代的地方行政の開始)

    明治6:地租改正条例(近代的税制、所有制度の創設)

    明治18:内閣制度創設

 

○大日本帝国憲法(1889。ちなみに東海道本線の新橋・神戸間が開通した年です)

  いわゆる明治憲法にはいろんな評価がありますが、「行政法」との関係での主な特徴を書き出してみますと・・・

帝国議会の創設

広汎な行政立法権限

行政裁判所制度

各省大臣の単独輔弼、枢密院の存在(、官選知事制)

    明治23:帝国議会開院

    大正デモクラシー

 明治から大正に移り変わるころから、「大正デモクラシー」といわれる民主的な思潮の支配する時代が来ます。この間に、政党内閣制が「憲政の常道」と称されるようになり、また「天皇機関説」が憲法解釈として力を持ちます。

    美濃部達吉(1873〜1948)

・大正8 都市計画法(→昭和43都市計画法(新))、市街地建築物法(→昭和24建築基準法)

・大正11 借地借家調停法 大正13 小作調停法(→昭和26民事調停法)

○ 昭和恐慌、戦時体制

しかし、その後、第一次世界大戦後の不況や関東大震災が日本経済に大きな影響を及ぼすようになり、昭和初期の金融恐慌・満州事変、農村恐慌を経て、我が国が全体主義的な社会に変化していくとともに、行政の役割が肥大化し、やがて「統制経済」の時代になっていきます。

    昭和13 国家総動員法、電力管理法

    昭和14 米穀配給統制法 (→昭和17食糧管理法(平成17廃止))

 

3 日本国憲法(1947)の制定

○ 憲法の制定

 終戦後、日本国憲法が制定され、行政のあり方も大きく変わります。大きなところを見てみるだけでも次のような変化がありました。

国会(立法権)との関係・・・緊急勅令などの行政立法のあり方が変化

裁判所(司法権)との関係・・・英米型司法制度の導入(・・→行政事件訴訟法(昭和37))

社会権(生存権)の確立

地方自治法・・・官選知事制度の廃止、自治体警察

国家行政組織法・・・官制大権の否定、行政委員会制の拡大

国家公務員法

国家賠償法

行政代執行法(行政執行法の廃止)

 

    高度経済成長

その後、我が国は世界でも有数の先進経済国に成長していきます。その間、行政のあり方についてもいろんな議論がなされました(昭和36〜39第一次臨調、昭和56〜58第二次臨調など)。この間に、都市問題や公害対策、医療・社会福祉、教育・文化行政などの面で行政の役割は大きく拡大しましたが、一方で、高度経済成長から安定成長に移行する過程で、「日本株式会社」といわれるような官民が一体になった産業振興や「政・官・財の鉄の三角関係」といわれる規制行政などが問題視されるようにもなってきました。

    昭和36〜 国民皆保険・年金制

    昭和42 公害対策基本法(昭和43 大気汚染防止法、騒音規制法)

 

4 21世紀型行政

1990年代から、行政のあり方について、大きな変革の時代が来ています。講義の最後の方でまた振り返ってみたいと思いますが、自己責任を旨とする経済活動、新しい政治の潮流、情報社会化・国際化などの社会全体の変化に対応するものだということができると思われます。

    行政手続法(平成5)

    行政情報公開法(平成11・13施行)、行政機関個人情報保護法(平成15)

    地方分権推進法(平成11・13施行)

    省庁再編(平成11・13施行)

    行政事件訴訟法改正(平成16)・・・・・

 

序論W:行政法はどういう形で存在しているか。(法源) 

1 行政のよるべき法の形式(「法源」)について

 「法」は、国家が執行を担保しているルールです。「法源」というのは、その「法」を国家がどこから見つけ出してくるか、そのソース(源泉)のことをいいます。ここで「国家」といいましたが、私人同士がプレーヤーとなる私法の世界では、この「国家」は「裁判所」です。これに対して、行政法の世界では、プレーヤーに行政が入っていますので、まずは行政が「法」を見つけ出して個々の事案に適用し、その適用が正しかったかどうかを裁判所が判断する、という仕組みになります(これを行政の第一次判断権といいます。平成16年の行政事件訴訟法改正で少し変わりましたが、それはまたお話します)。

さて、近代国家では、ご先祖さまの遺訓や偉人の言葉がそのまま「法」になるわけではありません。一定の手順を踏んで定められたルールが、「法」になります(これは行政法の分野に限られたことではない)。行政法の世界は、行政側が法に基づいて一方的に法律関係を確定させるタイプの法的活動が多いことから、契約を中心とする私法の世界に比べて、成文法の形で国民に示されている必要がより大きい(不文法の働く余地が狭い)ということはできますが、実際には、行政の仕事の範囲が非常に広く成文法の定めがないこともあるため、不文法も利用されています。

我が国で「法」の源泉となる「法源」には次のようなものがあります(他の法分野と違いはありません)。は、成文法があるかどうか(有効かどうか)、成文法が無い場合にあてはめるべき不文法は何か、という順番で争われます。

@成文法

 ○日本国憲法 法律以下の法が有効か否かを判断する基準になるほか、国家補償の分野など直接の適用が議論されることもあります。

 ○法律 国会により策定される「法」で、最も主要な「法源」となります。もちろん、憲法違反の法律は無効です。

 ○条約 条約は国会により批准され、国内法としての効力を持ちます。(一般には、条約を施行するための法令を整えてから批准されることが多い。)

 ○命令 行政府が策定する「法」をいいます。日本国憲法のもとでは「法律」に反することはありえません。決定権者のクラスによって、「政令」「府省令」「外局規則」「告示」等の形式上の違いがあります。(「行政立法」の章で取り上げます)

 ○条例等 地方公共団体が策定する法のうち、議会が策定するものを「条例」、長など執行機関が策定するものを「規則」といいます。(これも「行政組織」や「行政立法」の章で取り上げます)

A不文法

 ○慣習法・・・河川法87条、官報による公布、慣行による公水使用権

 ○判例法・・・原則として判例に下級審は縛られない(もちろん実態的には大きな影響があります)。行政府は判例を行動基準とする。

 ○条理法・・・権利濫用の禁止、信義則、平等原則、比例原則

2 根拠規範・規制規範・組織規範

 法律の留保の議論に関して、次のような規範の分類が問題となることがある。(→「法律の留保の対象となる「法律」とは、下記の「根拠規範」でなければならないのではないか」)。ただし、国会で法律が決められるとき、これは○○規範、これは××規範という区分けをして決められるわけではありません。

 ⑴ 根拠規範 行政の活動の根拠を定めている決まり。

例えば、「○○大臣は・・・しなければならない。」「○○大臣は・・・することができる。」

 ⑵ 規制規範 行政が何らかの活動をするときに守らなければならない決まり。

 例えば、「○○長官は・・・することをもってその責務とする。」(目的規範)「○○大臣は・・・しようとするときは、・・・しなければならない。」(手続規範)

 ⑶ 組織規範 行政の分担について定めた決まり。

例えば、「○○大臣は、(・・・のため、)・・・をつかさどる。」