行政法23(19.11.26)
行政作用法補論@
1 公法関係論
ここでは、法律を「公法」と「私法」に分けて分析していく「公法・私法二元論」という考え方について説明します。
⑴ 公法・私法二元論
・行政法という分野は、「公法」として成立した。
・絶対君主(行政)の活動を立法権(議会)の制定した法律によって制約する。→「法律による行政」
・絶対君主(行政)の活動を規制する法律は、私人間の契約関係を規制する私法とは別の法的原理に服する(のではないか?)。このような私法と異なる法の分野を「公法」と称した。
・フランスやドイツ(大陸法系)の諸国では、司法権(通常裁判所)は、私法原理の働く分野についてはもちろん裁判権を有するが、公法原理の働く分野については「行政裁判所」が管轄するという制度をとった。(私法原理の働く事項については、行政権の行った行為でも通常裁判所が裁判権を保有)
・明治憲法下におけるわが国の制度も、大陸法系の国々と同様だった。
⑵ 公法と私法の区分
以下のような説がある。(逆にいえばひとつにまとまっていない)・・・Dを覚えてください。
@ 主体説・・・法律関係の双方または一方が「行政主体」であるときに適用される法を公法という。
A 生活関係説・・・法の関与する生活を経済生活と政治生活に分け、政治生活に関する法を公法という。
B 利益説・・・私益に関する法と公益に関する法を区別し、後者を公法という。
C 権力説・・・法律関係の当事者間に、双務契約関係ではなく命令と服従の関係がある法を公法という。
D 折衷説・・・次項
⑶ 「行政上の法律関係」
⑵Dの折衷説では、「行政上の法律関係」を以下のように(三つに)分類し、行政の作用を公法関係と私法関係に区別する。
@ 国や公共団体が優越的な立場に立って公権力を行使し、国民に命令強制する作用・・・租税の賦課、違反車両の撤去、営業免許(禁止の解除)など
国家の統治権の発動として行われる行政分野であり、「本来的公法関係」と呼ばれる。このような行政の作用に関わる法は、国や公共団体と国民の間の「権力関係」を規律するものであり、対等者間の利害の調整を目的とする私法とは異質な、行政固有の原理に立脚した法となる。
A 国民と対等な立場に立って実施する非権力的作用・・・給付行政にかかわるような経営的な活動(水道・バス)や財産管理(公園の管理)などの作用。
行政主体と国民は支配服従ではなく基本的に対等な関係に立ち、私法関係と本質に違いはない。
ア)ただし、すべてを私法原理に任せてしまうと公益の実現・行政目的の達成に支障が生じる。中でも公物の管理に関する法律や医療・福祉に関わる分野では、公平性や採算の度外視など、私法原理とは異なった特別な法的扱いがなされる。このような分野は「伝来的公法関係」(「管理関係」)と呼ばれる。
イ)これに対し、行政が営利・独立採算を旨として行う経済的経営活動の分野(公営住宅など)は、行政の作用に関わるとはいえ、私法と共通の原理に立つとみられ、これらは「私経済関係」として通常の民事法と同質のものと考えられる。
行政上の法律関係・・・権力関係 ・・・本来的公法関係
・・・非権力関係・・・管理関係 ・・・伝来的公法関係
・・・私経済関係 ・・・私法関係
⑷ 公法関係への私法の適用
公法関係の分野については、私法が適用されるかどうかについて、以下のように説かれてきた。
@「権力関係」にある場合には、公権力によって国民に命令・強制をする関係であることから、私人相互間の利害調整のために作られている私法(民法や商法)が適用される余地はほぼ無い
A「管理関係」にある場合には、逆に明文で排除されない限り私法の規定が原則適用される。
Bなお、公法には総則的な法律がないので、「権力関係」についても、私法の世界で認められてきた「法の一般原理」や「法技術上の約束」が適用される場合がある。
・信義誠実の原則、権利の濫用の禁止(民法1条)
・ 期間の計算(民法138条等)
⑸ 公権と私権
法律上の権利についても、公権と私権に区別される。
@ 公権・・・公的な権利を主張する法律上の権利
A 私権・・・自己の個人(自然人・法人)的な権利・利益を主張する法律上の権利
このうち、公権については、国家(行政)の側と個人の側のそれぞれの権利が考えられ、次の二つに分類される。
ア)国家的公権・・・国または公共団体が国民に対して有する公権。公権力による支配権をいい、一方的な命令や強制を含み、法律に従って行使することが求められる。(例:許認可権、課税権)
イ)個人的公権・・・国民(住民)が国又は公共団体に対して有する公権。公的立場からする権利の主張だと考えればよい。参政権や自由権(職業選択の自由、営業の自由等)、受益権(生活保護請求権等)がこれに当たる。
☆ 個人的公権の特性
私権と違って、次のような特徴があると考えられている。
・一身専属性・・・個人的利益のために与えられるものではなく、あくまでも一定の権利者に行使させることが国家や公共の利益のためになると考えて与えられたものである。このため一身専属性を持ち、権利者個人の意思で勝手に放棄・譲渡・移転等をすることが制限される。(例えば、選挙権は売れない)
・ 相対性・・・絶対不可侵ではなく、公益の見地から制約を受けることがあり得る。(予算が無ければ生活補助はできない)
・ 権利行使の任意性(選挙権を行使しなくても処罰はされない)
・ 訴訟手続の特殊性(行政事件訴訟法)
・ 金銭債権の消滅時効(民法上の債権は消滅時効10年であるが、公法上の金銭債権は5年時効(会計法30条等))
☆ 私人の側から行政に対して行う行為(単なる私法上の契約行為などを除く)を「私人の公法行為」として捉える考え方もある。
・私人の行為は行政の活動に大きな意味を持つことが多い(申請が無ければ許認可はありえない)が、禁止された行為の解除請求や整序行政の発動請求など、公権の議論だけでは捉えきれない行為も多い。
・私人の公法行為には民法の類推される部分も多く、例えば、私人の意思の欠缼・瑕疵がある場合は、民法が類推適用される。(行政側の意思の欠缺や瑕疵については、外形主義がとられる)
・撤回の自由(退職願いなど)が認められるほか、私人の行為が必要な行政行為については、私人の行為が無効になれば、行政行為も無効となるとされる。
⑹ 公法・私法二元論の意義
日本国憲法には行政裁判所制度は存在しない。また、近年、公法・私法の区分を持たない(「行政に関する法」が無い、という意味ではない)英米法の影響が強まっている中で、公法・私法を区分する制度的基盤は弱まっているといわれる。現在においては、区分の意義は次のような点にあるとされる。
@ 訴訟システムの違い
裁判所は一元化されたが、「公権力の行使」に関する不服、その他の「公法上の法律関係」に関する訴訟は、「行政事件訴訟法」によって進められるものとされており、一般の訴訟が民事訴訟法によるのとは違っている。
A 金銭債権の消滅時効
「公法上の金銭債権」は消滅時効が5年になる。
★一方で、行政権は法律により個別的・具体的に授権された限度で国民に対し優位した地位をもつに過ぎず、公法関係という分野を想定して、民事法とは別の公法原理が支配する、ということを想定しなくても、行政法規を分析していけば行政法の働きは考察しうるとする、公法私法二元論への批判が有力となっている。
2 特別の公法関係(特別権力関係論)
公法関係の中でも特に議論があり、現在では「克服された」ともいわれる「特別権力関係」について説明する。
⑴ 特別権力関係
行政法の伝統的学説では、
○「法律による行政」の原理は、一般の市民と国家権力の関係(一般権力関係という)に適用されるものであり、
○これに対し、個人が、特定の法律原因により、行政と特別な社会的接触の関係に入る(公務員など一般市民と異なる行政上の特殊な身分を取得し、行政と密接な依存関係に立って行政目的の実現に協力する地位についた場合など)と、「法律による行政」の要請が緩和され、このような個人は、行政との間で特別な義務(他方、特別な権利もあるわけだが)を負うことになる(特別権力関係という)と考えられてきた。
→(つまり、このような個人との関係では「法律の留保」の原則が適用されない。)
★ 次のようなものが、「特別権力関係」である、とされてきている。
・公務員の勤務関係(議会と議員の関係を含む)
・公法上の営造物の利用関係(大学・病院・刑務所等)
・公法上の特別監督関係(特許企業者に対する監督(電気・水道・鉄道))
・公共組合における組合員との関係
⑵ 特別権力関係の内部での法的関係
@命令権・・・国または公共団体は、特別権力関係にある相手方に対して包括的な命令支配権を有し、行政目的の達成に必要な限り適宜命令を発して義務を課したり人権を制限したりすることができる。(法律の留保の対象外にあり、法律の授権は必要ない)
A懲戒権・・・特別権力関係内の秩序は管理者の権限であり、相手が命令に従わないときは、管理者たる行政庁は違反者を懲戒するなどの強制措置を講じることができる。
B司法審査との関係・・・Aと同様に、秩序維持は管理者の権限だから、特別権力関係内部での措置に不服があっても、一般国民としての地位を侵害するものでないかぎり、相手方は裁判所に訴えることはできない(とされてきた)。
⑶ 特別権力関係と司法審査について
@特別権力関係から排除する行為ないしは一般法秩序における市民としての法律上の地位に関するもの、については、司法審査の対象となる。(最高裁昭和35年10月19日判決)
※⇒地方議員の議員に対する懲罰について、出席停止や戒告は裁判所での審査の対象とはならないが、除名については特別権力関係から排除する行為であり、裁判所の審査対象となるとされた。
Aしかしながら、国会を唯一の立法機関とし、基本的人権の尊重を基本原理とする日本国憲法の下で、国民と国・公共団体との関係につき、「法律による行政」の対象から除外される「特別権力関係」という分野をみとめる必要性はあるのかどうかについて、議論がある。
@)一般否定説・・・「法律による行政」の原理を考えれば、特別権力関係が成立する余地はないとする。
A)個別否定説・・・特別権力関係という概念で一括されてきたいろいろな法律関係をみると、それぞれ違った法的規制の下にあるべき事項であると考えられる。さらに、これらの分野を個別に見ていくと、実は公務員法の制定などにより議会が定立した「法律」による規制が行われているのが現状であり、現代では「法律による行政」は貫徹されていると考えられる。(個別の各分野の法的規制がそれで適当かどうかについて検討すべきである。)
例:公務員の勤務関係・・・国家公務員法等により規制され、争議権の制限、政治行為の禁止などの制約があるが、基本的には私企業の労働関係と相異はない。
Bまた、裁判所の司法審査の対象外とされることがある(昭和52年3月15日最高裁判決:国立大学の単位認定問題)が、これについても「特別権力関係」という用語は使われておらず、実定法上ある範囲で自律権を保障された集団の内部規律について、当該社会の自主性に委ねられているもの、と考えられている(「部分社会論」)。そういう団体であれば、民間においても同様の自主的規律が認められている。(大学・病院については私立大学・私立病院にも利用者との間で同様の関係がある。)
3 行政手続法
⑴ 総論
行政手続・・・行政作用を行うための事前手続をいうのが普通。(広義では行政過程で行われる事後手続:例えば行政事件訴訟:を含むこともある)
(事前手続)・・ 行政作用 (公定力)・・事後手続(異議申立、審査請求、取消訴訟)
わが国では、従来、明治憲法下の訴願法、行政裁判法以来、行政行為の事後救済には目が向けられてきたが、事前手続については土地収用の規定などを除けば、法的統制の外にあった。加えて、行政行為の効果は、原則、処分の内容が「相手方に到達したときに効力が生ずる」とされ(行政処分即時発効原則)、行政作用が行われた後、事後手続でその効力を争うときには、すでにその効果が発生していることになる。このことから、日本国憲法制定後、事前手続を規定しようという試みが何度かなされてきた。
・国家行政運営法案(昭和27年・・・廃案)、第一次臨調行政手続法草案(昭和39年)、執行命令の形(政省令)での申請書式、手続規定の公表、いくつかの個別法での聴聞・弁明手続きの法定など
・ 第三次行政改革推進審議会行政手続法要綱案(平成2年)
・ 非関税障壁として諸外国からも批判
・ 平成5年、行政手続法制定
○明治以来の「事後的チェック行政」を変更するもの。「漢方薬」
○基本的には、行政庁の処分について、処分の内容の相手方への告知と相手方の自己主張の機会の付与、を行うもの。
⑵ 行政手続法の内容
@目的(1条)・・・・行政運営における公正の確保と透明性の向上を図る
・国民の権利利益の保護
・処分の相手方が地方公共団体やその他の公共団体である場合、適用されない。
→国と地方の関係(地方自治法)
A申請に対する処分の手続
・ 審査基準の作成と公開義務(5条)
※審査基準の不利益変更・・・原則、処分時の審査基準に従う(名古屋高裁金沢支部昭和57年)。経過規定や周知期間をきちんと定める必要があると考えられる。
・ 標準処理期間の設定と公開義務(6条)
・ 到達後遅滞ない審査の開始(7条)・・・「受理」概念の否定。申請が到達後、「受理」されていないとして審査を行わないことは許されない。
・ 拒否処分の理由提示(8条)
※ 申請者にとっては利益となる行政行為(認容処分)において、第三者が不利益を受ける場合、第三者に対する理由の提示は必要か。⇒行政手続法上は不要。個別法で理由提示義務のある例:土地収用法26条・・事業認定の際、理由を告示することとなっている)
・ 申請者への情報提供(9条)
申請者の求めに応じ、審査の進行状況や申請に必要な情報の提供に努める。
・ 意見聴取の努力義務(10条)
・ 複数行政庁が関係する場合、相互連絡等による審査促進(11条)
★ 申請と届出
「申請」・・・私人が行政庁に許認可等を求める行為であって、行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの
「届出」・・・私人が行政庁に一定の事項を通知する行為。
・ 法令上「申請」と書かれている届出:外国人の登録申請(外国人登録法3条1項)・・・諾否の応答は予定されない。
・ 法令上「届出」と書かれている申請:婚姻の届出(民法739条)・・・受理の応答義務あり。(ただし戸籍法案件は行政手続法の適用除外とされているので直接には問題はない)
・ 「自己の期待する法律上の効果を発生させるためには、当該通知をすべきこととされているもの」とはどのようなものか・・・航空機から物件を投下する行為は禁止されている(航空法89条)。空葬を行う場合など、地上の物件に危害・損傷を与えるおそれがない行為で「国土交通大臣に届け出たときは、この限りではない」とされている。
B不利益処分の手続
・ 義務を課し、権利を制限する処分。(申請に対する許認可等の拒否処分などが除外される。2条4号)
・ 判断基準の作成・公開の努力(発動件数が稀である場合があること、公にすることで「ではここまではいいんだ」と知らしめることになり、違反を助長することになる可能性があるため)(12条)
・以下、英米法の法理とされてきた「不利益処分の通知と意見陳述機会の保障」を法定化
・ 不利益処分をしようとする場合、不利益処分の予定を通知し、聴聞手続又は弁明の機会を与える。(13条)
C聴聞手続き
・ 聴聞の通知(15条)
・ 不利益処分の内容・根拠条項、原因事実、聴聞の期日・場所、聴聞に関する事務を行う組織
・参加人の参加(17条)
・ 資料閲覧権(18条)
・ 審理方式・・・対質、非公開(20条)
・ 聴聞調書・報告書の作成(24条)
・ 行政庁は、この調書・報告書を十分に斟酌して処分を行う。
・異議申し立ての制限(27条)
D弁明の機会の付与
・書面方式
E不利益処分の理由の提示(14条)
F行政指導に関する定め・・・「世界ではじめての規定」
・ 所掌事務の範囲、任意性、不利益取り扱いの禁止(32条)
・ 申請者が不服従の意思を表明した場合には指導は続行しない。(33条。昭和60年最高裁判決)
・ 許認可権限を背景として、許認可を行使する意思がない場合に、許認可を行使しうる旨をことさらに示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。(34条)
・ 責任の明確化、書面交付、共通指針の公表(35条・36条)
G届出
・ 到達主義の採用(受理せずに指導することを防ぐ)(37条)
H意見公募手続(パブリックコメント規定)
・ 行政立法の事前手続
平成11年4月、規制に係る意見提出手続きを設定(閣議決定)
平成17年法制化
・「命令等」を定める場合の原則・・・法令適合、適正確保
※命令等・・・法律に基づく「命令」(行政庁が策定する一般法規)又は規則、審査基準、処分基準、行政指導指針(2条8号)
・命令等について、「命令制定機関」は30日以上の意見提出期間を定めて一般の意見を求める。
・ 意見考慮、結果の公示(42条、43条)
I地方公共団体の責務
行政手続法の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るための必要な措置を講ずる努力規定(38条)
⑶ 環境影響評価手続(環境アセスメント)・・・環境影響評価法(平成9年制定)
・ アセスメント事業のスクリーニング
・ 評価方法書の縦覧、項目・調査評価手法の選択
・ 評価書の広告縦覧 (実物)
・ 国民・環境大臣の意見書提出権