行政法22(19.11.19)

行政作用法各論J

行政上の強制措置・行政調査(2)

 

3 即時強制

⑴ 定義

 緊急を要し相手方に義務を命じていたのでは目的を達しがたい場合、一定の相手方に義務を命じることなく、行政機関がいきなり有形力を行使して必要な状態を作り出す事実行為。

 行政権による「緊急避難的」活動であると理解される。

    警察官職務執行法による保護、避難措置、犯罪の予防・制止、強制立入、武器使用など(職務質問は?)

    消防法29条による土地物件の使用制限、処分(家屋倒壊など)

    道路交通法51条の違法駐車車両の移動   など

 

⑵ 問題点

@ 要件

 即時強制は何らの予告なく行政機関が有形力を行使して、直接に国民の身体、自由、財産を制約する作用であり、人権侵害をともなうおそれが高いことから、法律の根拠と目的・要件・限界の法定が求められる。一方、即時強制は緊急の場合に行われるものであるから、要件を限定しすぎると本当に必要なときに発動しなくなってしまうおそれもある。一般論としては、安易な拡大解釈を行わず、かつ法の趣旨にかなった適切な権限行使が必要となる。

 

A     令状主義との関係

 憲法は、逮捕や家宅への立入には裁判所の発する令状が必要であるとしている(33条、35条、38条)。これは刑事事件の捜査等に関する定めと解されているが、行政上の即時強制においても令状は必要かどうか、が争われることがある。

◎国税犯則事件の調査のように刑事手続の一環ないし前提としてなされるような場合を除いては、適用されない。(昭和30年最高裁)

◎当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に(令状主義の)保障の枠外にあると判断することは相当でない(昭和47年最高裁)

☆実際に、警察官職務執行法3条の身柄保護について、24時間を超える場合は裁判官の許可状を要すると定めているなど、令状主義を導入して慎重な手続をとっている例もある。

 

B 有形力行使

 即時強制にあたって執行機関は具体的状況に応じ必要最小限の強制力を用いることができる。(最高裁昭和48年)

 

4 行政調査

行政機関が、私人の行為に対する規制などの行政作用を公正に行うために、その予備的活動として、法律の定めに従い、@関係人に書類等の提出その他報告を求める、A工場・事業場・家宅などに立入る、B身体や財産について調査するなどを強制的(受け入れないと罰則があるものが多い)に行う行政作用。

実態の調査という事柄の性質上、事前に受け入れを告知しておくのは不適切であることが想定され、いわゆる「抜き打ち」調査が求められる。この点が即時強制に類似するが、公益上望ましい状態を直接作り出すための行政作用ではなく、単に情報の収集を目指すものであることから、即時強制そのものではないと解されている。

    税務調査(所得税法234条の質問検査、国税徴収法142条の捜索など)

    警察官の職務質問(警察官職務執行法2条)・・・相手のポケットに手を突っ込んで調べるのは違法(最高裁53年)。もちろん任意での所持品検査は問題ない。

    立入検査(風俗営業法37条、消防法4条、大気汚染防止法26条など)

    届出・報告要求(消防法16条の48など)

 

    行政調査は「犯罪捜査のために認められたものではない」とされている場合が通常であり、即時強制と同様に、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつかないかぎり、令状・黙秘権など憲法38条は適用されないとされている。(最高裁47年等)

    自動車の一斉検問について、職務質問の一形態であるとされる。(相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り適法とされている(最高裁昭和55年)

 

5 行政上の義務違反に対する制裁

行政上の義務違反者に対し制裁として不利益を課し、その威嚇的効果によって義務の履行を確保しようとするもの。過去の義務違反に対する制裁であり、将来に向かって義務の実現を図ろうとする強制執行(たとえば執行罰)とは本質が異なるが、機能面から見ると行政上の強制執行を補完するものと見ることができる。

⑴ 行政罰

行政上の義務違反に対し制裁として科される罰をいい、行政刑罰と行政上の秩序罰に分類される。

イ)       行政刑罰

行政上の義務違反に対し科される「刑法に刑名のある刑罰」をいう。(懲役、禁錮、罰金、拘留、科料)

刑法総則が適用され、裁判所が科刑する(※)。

行政刑罰は通常の刑罰と異なり、行政上の義務違反に対する取り締まりの見地から科されるものであるので、若干取り扱いを異にするとされる。

・「自然犯」ではないため、行為の禁止が法定されているのが通常

    両罰規定

    犯意を必要とせず過失をもって足りる など

    交通事件即決裁判手続法など、刑事訴訟法ではなく特例手続に従うものもある。

 

ロ) 秩序罰

行政上の義務違反であるが、直接的には公益を侵害しないような軽微な形式的違反行為に対して科される「過料」という制裁をいう。届出、登録などの手続を怠るときに科される場合が多い。過料事件は「非訟事件訴訟法」により、裁判所が職権で審理を開始して科す。地方公共団体も条例・規則に定めて過料を科することができるが、この場合は地方公共団体の長が科す。

 

例えば:住民基本台帳法では、次のような行政罰が定められている。

@    指定情報処理機関の役職員が情報の漏洩などを行った場合・・・二年以下の懲役・百万円以下の罰金(両罰規定もあり)

A    住民票記載事項について市町村の職員がする質問に答えなかったり虚偽の陳述をした者・・・五万円以下の罰金

B    不正手段等により住民基本台帳の閲覧等をした者・・・十万円以下の過料

C    虚偽の転入届等をしたり、正当な事由なく届をしなかった者・・・五万円以下の過料

 

⑵ その他の制裁措置

  行政がその責務を果たしていくために、行政罰以外にも簡易な制裁方法が工夫されている。次のようなものが挙げられる。

@ 許認可の停止・取消・・・利益処分である許認可を受けた者が法令に違反したり附款に違反した場合に、再発の予防と制裁のために行われる許認可の停止・取消(撤回)。営業許可の停止・取消、自動車運転免許の取消・停止など。

A 経済的負担・・・行政上の義務違反に対し制裁として経済的不利益を課すもの。租税法上の各種加算税(例えば脱税が発覚すると重加算税などが課される)、道路交通法上の反則金、国民生活安定緊急措置法に基づく課徴金など。

    罰金との二重科刑にはならないのか。脱税には、滞納に対する加算税と脱税に対する罰金が同一人に科されることになり、憲法39条の二重処罰禁止に該当しないかが問題になったことがある。不正行為の反社会性に着目して科される制裁である罰金と、納税義務違反を防止して納税の実効をあげる目的で徴収する加算税では、目的を異にするから二重刑罰には当たらない、とされる。(最高裁昭和33年)

    交通違反について、「反則切符」を切られて、まず支払う「反則金」は、この「その他の制裁措置」の「経済的負担」に該当する。支払い先は公安委員会になり、これを支払うことによって、犯罪としては告発されないことになる。反則金を支払わない場合は、裁判所に訴えられるが、この場合も刑事訴訟法ではなく上記の「交通事件即決裁判手続法」でさばかれることになる。(もちろん、業務上過失致死のような重大な犯罪を犯している場合は、交通違反の問題としてではなく刑事犯として裁かれる。)

B    違反事実の公表・・・行政上の勧告や命令に従わない者について、その事実を公表して世論による社会的制裁を期待し、その威嚇的効果によって行政への協力を促そうとするもの。不当景品類及び不当表示防止法の違反行為者に対する排除命令の告示、国民生活安定緊急措置法の勧告・指示違反者の公表など。法律に基づかずに行うことも可能。

C    給付の停止・・・行政契約の一種と解される「公害防止協定」などで、公害を発生させた工場には工業用水の供給を停止する、というような定めをしている場合がある。マンションに対する上水道の供給停止が水道法違反とされた(行政指導の項)ように、違法な行為を構成することがある。

 

    実務上は、行政罰を告発するのは大変な労力を伴い、告発されても検察も対応しきれない場合も多い。その一方で、科される罰は決して高額でない罰金刑であることが多く、義務履行の確保の有効性に疑問のある場合もある。

    なお、地方公共団体は、秩序罰を支払わない者については自ら強制徴収することになるが、強制徴収の専門家自体がいないのが実情といわれている。

(次回は行政作用法補論(公法関係論))