行政法21(19.11.12)
行政作用法各論I
行政上の強制措置・行政調査(1)
1 総論
⑴ 行政上の強制措置
法が一般に予定しているのは、法律により、行政庁が行政行為により国民に作為・不作為の義務を課した場合、国民がその義務を履行して行政上必要な状態(公益の守れる状態)を作り出す、という流れ。この流れに沿わない場合やこの流れに沿うことを確保するため、法は必要な場合に行政上の強制措置を認めらている。
⑵ 分類
以下、「行政強制」と「行政上の義務違反に対する制裁」に分けて考察する。
この二者は次のような関係になっている。
@国民があらかじめ命じられている義務を履行しない場合、行政側が義務の履行を強制すべく実力を行使する。→行政上の強制執行
A行政側が緊急の必要を満たすために、あらかじめ国民に義務を課すことなくいきなり強制力を行使する。→行政上の即時強制
国民に命じられている義務の履行のために、@の行政上の強制執行を補完する仕組みとして、B行政罰があり、またC「その他の履行確保のための手段」がある。(一般にこのうち@とAを合わせて「行政強制」といい、B・Cは「行政上の義務違反に対する制裁」であるが、@〜B(あるいはCまで)をあわせて「行政強制」と呼ぶ場合もある。)
なお、通常行政強制とはみなされないが、行政上の即時強制に近いものとして、D「行政調査」と呼ばれる行政の行為形式がある。
行政罰・その他(義務違反に対する制裁)
↓
法律 ⇒ 行政行為 ⇒ (国民による義務の履行)
× ・・・ ⇒ 行政上の強制執行
⇒ × ・・・・・・・・・ ⇒ 行政上の即時強制
(類似:行政調査)
( ⇒ 一般の契約など 債務者の義務履行
× ・・・・ ⇒ 司法上の強制執行 )
2 行政強制
⑴ 定義
行政機関が行政目的を実現するために国民の身体や財産に有形力(実力)を行使する作用。上述のとおり、行政上の強制執行と行政上の即時強制がある。
なお、三段階モデル論からみても、即時強制は例外的な場合であるとされる。
⑵ 行政上の強制執行
一般の民事法では、権利義務関係において義務者がその義務を履行しない場合、権利者が実力をもって義務の履行を図ることは認められていない。裁判所に訴え出て、判決を得て、執行官により強制執行してもらう必要がある(司法上の強制執行)。これに対して、行政には(一定の範囲で)自力救済特権(義務の履行を強制する特権)が認められる。(自力執行力)
※ ただし、「自力執行力」の範囲は、法律による(立法政策の問題である)ものであり、行政の意思について、法律の規定なしに自動的に自力執行力が認められるのではない点に注意。
@ 行政上の強制執行の手段
以下の四種の手法があるとされている。
イ)代執行
代替的作為義務(他人が代わって行うことのできる作為義務)の強制手続。行政庁又は行政庁の指定する第三者が、義務者本人に代わって義務となっている行為を実施し、義務が実現されたのと同じ状態を作り出す。その上で、費用を本人から徴収する。
ロ)執行罰
非代替的作為義務(他人が代わって履行できない作為義務)及び不作為義務(何もしないことは代わりにはできない)の強制手続。一定の期限を付して義務者に義務の履行を促し、それまでに履行しない場合は一定額の「過料」を課すもの。過料の圧力で義務の履行を確保しようとするもので、「間接強制」という言い方もある。時期までに履行されなかった場合は、再度時期を指定して過料を課す。
ハ)直接強制
義務者が義務を履行しない場合、直接、義務者の身体や財産に実力(有形力)を加えて義務の内容を実現する手続。
ニ)強制徴収
金銭債権に関する義務を履行させるもの。国税徴収法に定められている「国税滞納処分」が代表例。
※国税滞納処分:滞納者への督促→一定期間の経過→差押え→公売処分・換金→換価代金の滞納債権への充当
A 明治憲法下における状況
国の行政作用に関し、「包括的」な行政上の強制執行制度が整備されていた。「法令又は法令に基づき為す処分」については、自ら強制執行することができた。(行政の「自力執行力」に対応した法制度)
金銭債権・・・国税徴収法による強制徴収があり、他の個別法律でもこの規定を準用。ただし、国税徴収以外の金銭債権に一般的に適用される制度ではなく、それぞれの債権を定める法律において、「国税滞納処分の例による」と書かれてはじめて適用されるもの。
その他・・・行政執行法(明治33年法律第84号)により、代執行手続をとること、執行罰を課すことができた。また、この二者で実効を期すことができない場合や緊急の必要がある場合には、直接強制を行うことができた。(行政上の強制執行に関する一般法)
B 日本国憲法の施行後の制度状況
行政執行法が廃止され、代わって「行政代執行法」(昭和23年法律第43号)が制定された。
⇒「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。」
義務の履行確保についての一般法の位置づけになるが、「代替的作為義務を行政行為で命じた場合」だけに対処するための法律である。
い)代執行(行政代執行法)
@)発動要件
・法律(☆)により直接命ぜられ、又は行政行為によって(行政庁に)命ぜられた義務
☆法律の委任に基づく命令、規則及び条例も含む。(法律に委任されていない条例は含まれるか?)
・代替的作為義務の不履行
◎ 現にひとが住んでいる建物等の撤去・明渡しは代替的作為義務か。
→代執行の実行に際しての妨害・抵抗を排除するための必要最小限の実力行使は認められる(札幌地裁昭和54年)。
→直接強制によってのみ実現可能な義務であって行政代執行によることはできない(横浜地裁昭和53年)。
・他の手段によってその履行を確保することが困難
・不履行の放置が著しく公益に反すると認められるとき
◎ 建築基準法に違反した建物であっても隣家の日照・通風が妨げられているだけでは代執行の要件は満たしていない(東京高裁昭和42年)
A)戒告・・・義務の履行期限を明示して文書で行う。(準法律行為的行政行為に該当する)
B)代執行令書の通知・・・代執行の時期、代執行の責任者、代執行に要する費用の概算を通知
C)代執行・・・執行責任者に証票携帯・呈示義務
◎ 養蜂施設撤去に際しては専門家の手によりミツバチを死滅させずに行わねばならない。(福岡高裁昭和40年)
D)費用徴収・・・納付しないときは「国税滞納処分の例による」。
→要件、手続が厳格であり、執行の専門家もおらず、なかなか使われない(→使うと政治問題化する可能性もある)。
ろ)執行罰
「執行罰」よりも裁判所の刑事判決によって罰金を科す方が、法の支配を貫徹する上で(さらに威嚇効果も強い)適当との立法判断から、一般的制度としては廃止された。現在残っているのは、砂防法36条の定めだけ(実行されたことは無いといわれる)。
※なお、厳密には「罰」ではなく、「履行しない場合の金銭的負担」であり、行政上の必要がある限り何度でもかけられると考えられている。上記の罰金制度についての告発の困難さなどを考えると、行政実務上は実効性がある可能性があることから、近年見直すべきだとする学説もある。
は)直接強制
人権侵害を伴う可能性が強いため、一般的制度としては廃止された。公共の秩序の維持や国民の健康や安全を保護するために早急かつ確実に行政上の義務を履行させる必要のある場合、特別の法律で規定されている場合がある。
・感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律法第17条(健康診断)、19条(入院)
・ 学校施設の確保に関する政令第21条
に)強制徴収
明治憲法時代と同様、「国税徴収法」の規定と、個別法における準用で対処されている。
・ 地方税法48条等、行政代執行法6条、国民年金法96条など
C 司法上の強制執行の行政による「活用」は許されるか。(司法以外の道が設けられているときは認められない⇒バイパス理論)
・ 農業共済組合が組合員から共済掛け金を取り立てるには、農業災害補償法により、一般私法上の債権にみられない特別の取り扱い(行政上の強制徴収手続)が認められている。これは、法が、当該事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保するためには簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが適切・妥当であるとしたためで、この手段を与えられながらこれによることなく、一般私法上の債権と同様、民訴法上の強制執行の手段によるのは権能行使の適正を欠くものとして許されない。(最高裁昭和41年2月23日判決)
・ 市が、条例に違反するパチンコ店の建設の禁止を求めて裁判に提訴するのは、行政上の義務の履行を求めるものであり、法律上の争訟にあたらず、法律に特別の規定がなければ許されない。(最高裁平成14年7月9日判決)(バイパスが無い場合でも認められない)
(次回は即時強制〜行政罰について)